氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

高校ブランド化

「家帰れる?」

宅の坊主から唐突にLINEが入った。午後12時52分のことだ。いつも思うことだが、言葉に筋道がなくあまりに散漫とし過ぎて全く意味がわからない。そんなところは奴の母親にそっくりで「さすがB型」とうならざるを得ない。震災に見舞われたわけでもなし、そりゃ普通に帰れるだろうよ。

「どういう意味?」
「1時半から会議なんだけど。」

「3時以降」
「応募申し込み書の印鑑押してないから」

“ははぁ~、おそらく就職に必要な願書に印鑑を貰い忘れたな。”
書類の提出期限切れや内容の不備など実によくあることだから今更動ずることもない。

「どんな印鑑でもいいなら今持ってるぞ」
捺印くらいならば仕事帰りにちょいと寄り道をして学校に行けばよい話だ。

「間違えた」
「署名」

「帰りに学校に寄ればいいのか?」

「応募申し込み書を家に忘れた」

「…。」

どうやら提出期限は昨日のことだったらしい。

当初は「まだ働くのは嫌や」といった理由だけで進学をする予定だった。パソコン作業が得意なので、それ専門の学校に行きたいと意思を示していたのだが、何ぶん県庁所在地であるにも関わらず僻地在住であるからにして、通学には相当な通学時間と交通費を要することになる。ならばいっそのこと、車の免許をとって自動車通学が出来る大学にしてはどうかと提案したところ、奴の頭脳レベルに掛かったのは悲しいかなFランクの大学のみであった。

偶然にもその手の進学・就職に詳しい、元教師の肩書きがあるNPOの法人主催者とコンタクトがとれ、ことのついでとその話をしたら一度、宅の坊主と話がしたいということになった。実はまだ坊主が小学生の頃に岐阜市立科学館で催される「発明教室」で教えを乞うたことがある。要するに坊主もまた面識があるということだ。

日曜日という、貴重な休日に時間をつくってもらうことになった。

内容は概ねこうだ。今、就職を決めるのならば、企業にとって即戦力になりうる為、ある意味ブランドとしての価値がある高校だけど、下手に進学をすると逆にその価値観が薄れまともな就職先にめぐり合うことはないだろう、だから考え直した方がいい。

「働いたら負け」なんてことを口にしていた坊主だが、親でも担任でもない第三者がそこまで親身になって説得してくれたことにかなり心が振れたらしい。

ブランドと言われても皆、ピンと来ないだろう。自分もまたそのひとりだった。ここは親として無責任かつ、無知であったことを恥じるべきところだ。求人は生徒数を遥かに超える2倍を越す会社から寄せられ、その名を聞けば誰もが知る大手や、中部圏にあるその子会社、名こそは知られてはいないものの、実はある分野において世界シェアNo.1の会社であったりと多岐にわたる。求人に掛かってくれたら万々歳、求人は出したものの網に掛からず、また今年も来てくれなかったか…、と企業側がため息を漏らすほどだというから驚きだ。

そんなわけで就職へ向け一気に舵を切ったわけだが、切ったわけだが「おい、おい」といきなり呆れてしまう。とはいえ、今の今までほぼ放置していた自分にも多少の責任があると認め、これからはただ見ているだけでなく、親として出来ることを努めて果たしてあげようと思う。

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