初めて尽くしで「もう、いやぁ~ん」
予てより約束していた通り、坊主が着るリクルートスーツを買い求めに近所のショッピングモールへと出かけた。
オープン時間が10時だったのでそれに合わせて到着したのだが、幾ら時間が早いとはいえ余りにもガラガラな駐車場を見るのは驚きを通り越してもはやうんざりだ。勿論、昨晩からの雨もその理由のひとつであることは否めない。
車を降り入口へ向かう。何やら張り紙がしてある。
「営業時間変更のお知らせ」とある。
「えっ!11時からだと。マジかぁ~」
客足を鈍らせる理由がもうひとつ加わったことになる。
「営業時間を短縮することでうつされないという科学的根拠があるのかよ」
と憤る坊主。仕方がないので車の中で時間をつぶすことにした。
当初、スーツなど要らぬと言っていた。事実、就職先はIT企業らしく私服での通勤となる。ただ入社式には必要だから、その時は親父のスーツを貸してくれればいいと言っていた。だが、断る。いや、断るというよりも、俺は身長で10cm以上も溝を開けられているんだぞ。その身長差を知っていて言っているのならば「親父のスーツでいい」と言われても屈辱しか感じられない。
というわけで嫌がるのを無理やり連れ出したというわけだった。向かう先は「P.S.FA」。紳士服の「はるやま商事」が主に20代から30代に向けて展開する、いわばちょっとシャレオツなスーツショップだ。「パーフェクトスーツファクトリー」を縮めて「P.S.FA」となる。ピコ太郎は元気にしているだろうか?
新卒者を子にもつ親、つまり自分の元に、様々な紳士服店よりDMが届いのだが、その中でも一段と目を引いたのがこのショップのDMだった。
スーツ、19,000円+税
靴、9,900円+税
ベルト、3,900円+税
ネクタイ、3,900円+税
Yシャツ、3,900円+税
ハンカチ、500円+税
以上、6点セット、
最大トータル41,100円+税が、15,000円+税
と書いてあったならば、ここで選ぶ選ばないはともかくとして、先ずは行って見たい気になる。つまり、行く前は買う買わないはまだ決めていなかった。
「あ”ー、もう何でもいいで親父決めて。葬式でも使えるで黒でいいゎ」
決めてはいなかったのだが、ショップに入ったとたんこうだったのでこの瞬間に決まることとなった。ただ選んでいる間も
「これ学生ズボンと変わりねぇじゃん。そのまま学生ズボン使えばよくね?」
とか、
「Yシャツ居るの?高校のでいいじゃん。校章が刺繍してあるけど上着脱がなかったらわからんし」
とか、
「靴なんかスニーカーでいいゎ」
とか、ある意味親思いで言ってくれている様にも聞こえるが、実はただただ面倒くさいだけの話。諸々、含めて結局、自分の買い物をしているみたいになってしまった。まぁ、いいか。息子が恥ずかしい思いをしない様に仕向けるのも親の務めと自分に言い聞かせる。因みに支払いはいつもの如く「PayPay」で。
ところでショッピングモールへの往復は車とは前述した通りだが、いつもと違うのは運転席と助手席に座る顔ぶれが違っていたこと。
助手席から見る坊主の顔には逞しさよりもまだまだ狂気を感じること禁じ得ない。