贈り物にしても女性用化粧品など買ったことがないです。
仕事中に携帯がなった。携帯がなること自体は珍しいことでも何でもないが、発信先は045から始まる見たこともない電話番号だった。小さく「神奈川」と表示されている。
商売柄、営業の電話はよく掛かってくる。が、0120からなる電話番号には相手が特定出来ねば出ないことにしている。100%営業の電話だからだ。そもそもフリーダイヤルから掛けてくること自体、失礼なことだと自分は捉えているということもある。
通話のボタンをタッチする。
「もしもし、お忙しいところを恐れ入ります。ライフカードと申しますが…」
なんだ、カード会社かよ。どうせ保険の勧誘か何かとのセット割引のご案内だろう。そう思った途端、嫌悪感が増したので、
「すみません。仕事中なのですが」
と話を打ち切ろうとした。
「それではいつ頃がお手すきですか?また改めさせて頂きます」
ん?やけに食いついてくるな。具体的に「いつ頃」と訊かれるということは確実に伝えなければならない話でもあるのか?
「どの様なご要件でしょうか?」
「ライフカードをお持ちのことと思いますが、私どものセキュリティに、お宅様のカードが不正に利用されたといったデータが上がってまいりました」
「えっ?」
確かにライフカードは持ってはいるが、いつも財布の奥底に眠っており持っているという事実だけで使用したかどうかの記憶がない。なだけに尚更、大事ではないか。この場合の「大事」は「おおごと」と読む。念の為に。
「すみません。仕事を片付けますので5分後にもう一度お願い出来ますか?」
そもそも仕事などしてはいなかたが緊張感を和らげる為にもひと呼吸必要だと感じた。
そして5分後。
「不正利用って、要するに自分のカードで誰かが買い物をしたということですか?」
「因みにどこで何を買ったのか教えて頂けますか?」
立て続けに質問を重ねる。
「日本でのネット通販にアクセスされております。『ヘレナルビンスタイン』にて5,280円のご利用がありますが、お買い物の覚えがありますか?」
なんだ『ヘレナルビンスタイン』って。人の名前か?慌てて目の前のPCでググってみると、女性用化粧品のメーカーらしい。女性には興味があるが化粧品には興味も知識もない。
「それ以前に『NOIN(ノイン)』という会社にもカードの登録があります」
再びググってみると、此方も化粧品のメーカー、若しくは取り扱い会社の様だ。
「ただ、此方は登録のみで使用はされておりません。抜き取られたカード情報が使えるかどうか確かめたということが考えられます」
「此方も身に覚えがありません。どうすれば良いですか」
「一旦、お持ちのカード情報を破棄させていただき、ナンバーを変え新しく発行させて頂きます。お手持ちのカードは裁断処理を施してから廃棄して下さい」
不正利用された金額についてはカード加入時の保険で対処してもらえるらしい。なにはともあれ事なきを得たことに安心をした。しかし、どうやって情報が抜かれたのかが未だに理解するどころか想像も出来ない。
まさか、仮睡盗(かすいとう)ではなかろうか。飲むのはいいけど寝落ちするのは危険が伴うということを再認識した。