氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

初めての美容院 坊主編

部屋の障子戸がすーっと開き誰かが部屋に入ってくるのを背中で感じた。我が家は純和風建築なので、キッチン以外は全て座敷だ。故に全ての部屋が引き戸になっている。

 

「親父、ちょっといい?」

てっきり、次女が驚かしにでも来たかと思っていたら、珍しくも坊主だった。

 

「なんや?どうした?」

「いやさ、これから床屋へ行こうかと思っとるんやけど、どんな髪型にしたらいいかな?って思って…」

 

な、なんということ!高校へも社会人になってからも、寝癖が付いた頭をものともせず、鏡すら見なかったあの坊主が!まさか髪型を気にする様になったとは!苦節19年。やっと色気づいてくれたのか?

 

「友達はウルフカットが似合うんじゃないか?って言うんやけど…」

なんだ、ウルフカットって?

 

さっそく画像検索してみる。

「あぁ、後ろ髪が長いやつか。これって下手したらクソ田舎のどヤンキーみたいになるんじゃねぇの?顔がウルフみたいにシャープならばまだ似合うかも知れないけれど、お前は典型的な丸顔だからな、いまいちイメージに合わんな」

「じゃ、どうすればいい?」

「そこは『餅は餅屋』で、美容院に行って『自分に似合う髪型にして下さい』って言ってみたら?」

「えー、美容院なの?床屋ではあかんの?」

「ヘアメイクなら美容院の方が得意だと思うぞ。角刈りやパンチパーマにするなら床屋の方がお薦めだけど」

 

試しに娘たちが通う美容院の予約状況を「ホットペッパービューティー」で確認してみる。

「あれ?休みじゃん。第五日曜日だからかな?来週だったら予約取れるぞ」

「1週間も耐えられんな」

「じゃ、年中無休でやってる『プラージュ』にしたらどうだ?安いだけあって色々と手抜きだけど、腕は悪くないと思うぞ。パーマかけても安いし」

「パーマかけると朝めんどうじゃない?」

「どうだろ?オレは高校時代にパーマだったけど、朝はブラシを入れるだけで逆に楽だったけどな」

「どうなるかわからんけど、取り敢えず行ってみるゎ」

 

そして夕方。

「ねぇねぇ、お父さん。お兄ちゃん、カッコよくなって帰ってきたよ」

と次女がわざわざ報告に来たので、さっそく見学に行ってみた。

 

「おぉ、中々いいじゃないか。ん?パーマかけた?」

「いや、ワックスで形を付けてもらった。『似合う髪型にしてくれ』って言ったら雑誌を渡されて『この中から選んでくれ』って言われたから『じゃ、これ』って」

「やっぱりプロは違うな。似合ってるゎ」

 

まぁ、実際にはいつもの寝癖が更にキツくなった様にしか見えなかったが、坊主にとって初の美容院体験はこれからの彼の未来を切り開くきっかけにはなるだろう。父親としては万感の思いだ。

 

さて、これをスタートに更なる初体験を積み重ね、孫の顔が見られることでやっとゴールとなる。一刻も早くゴールテープを切ってもらいたいものだ。

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