氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

幸せの「いいとこ探し」

「わたし遠近両用メガネ作らなあかん」

「あ、そう」

 

確かに老眼鏡をかけたり外したりと仕事をする上でその手間が面倒に感じるときは自分にもある。特に普段の視力がよい嫁にとってはその手間はより面倒なことだろう。

 

「作ればいいじゃん。JINSZoffでいいんじゃない?それか赤札堂とか」

Zoffが安いらしいね」

「もっと早く作っておけば良かったのに」

「それがさ、この間あまりにも目が見えにくかったから眼科に行ってきたんやて」

「ほう」

「それで視力測ったら0.6って言われてまって…」

「はぁ?」

思わぬ言葉に耳を疑った。

 

「え?嘘、なんで?だっておまえ視力だけが取り柄やったやん。5.0くらいはあっただろ」

「うん、そうなんやて。わたしにも視力が落ちた理由がわからんもん」

「ってことは、今ではオレの方が目がいいってことじゃん」

 

恐らく両方とも裸眼で1.0はあると思われる。とはいえ未だ腑に落ちない。先日の運動会での出来事だ。自分が探し当てられなかった娘をいとも簡単に探し当てることが出来たことだ。

 

「たぶん、目が悪いなんて思ってなかったからじゃない?」

理由としてはちょっと無理がありそうだが、ひょっとしたら目に見えぬ母娘の何かしらの絆が働いたのかも知れない。

 

そこでさっそく買いに連れて行ってやった。どこでも似たようなものだろうがZoffがお望みとのことだったのでテナントのあるモレラ岐阜を訪ねた。

 

「遠近両用って出来ますか?」

さっそく店員に訊いてみると遠近両用は通常料金に5,000円上乗せになると言う。他所のメガネ屋でもよく見られる光景だがここでもスタッフは全員メガネをかけている。

 

「どうしよ。どれかけても似合いすぎる」

遠慮もなくのたまう図々しさと優柔不断さは相変わらずだ。なかなかフレームを決めきれない。

 

「これなんかどうだ?」

痺れを切らし適当なフレームを選んであげた。

 

「これちょっと頭良さそうに見え過ぎじゃない?」

「頭悪いんだから良さそうに見えた方がいいじゃん」

と頭をよぎるも言葉にはせず、結局検査とフレーム選びに費やした時は約1時間半。出来上がりまで約2週間かかるという。

 

「しかしお前、目も悪いし歯も悪いし…」

歯医者通いも長きに渡っている。

 

「顔も悪いし」

自分で言うということは多少自覚がある様だ。

 

「おまけに性格も悪いとくればいいところ全くないな」

「ホントや、ははは!」

多少、おバカなのは逆によいところなのかも知れない。

 

ここ数年にわたり秋になると頂戴する「未亡人の手作り栗きんとん」。今年はついさっき作ったという出来立てホヤホヤのものを頂いた。滋味深く哀愁の漂う味わいは健在だった。

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未亡人の手作り「栗きんとん」