氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

「そりゃ、『松葉ガニ』だもん。美味いに決まってんじゃん」

静かな日曜日の朝だった。まぁ、休みの日でも3時には目が覚めてしまうので、その時刻に喧しければ火事か事件か天変地異のいずれかだろう。だから、そうじゃなくって世間一般でいう家族が普通に目を覚ます朝のことだ。

 

娘達が嫁の実家に泊まりに行っており不在だったということもある。いつもの日曜日ならば「お父さん、ごはん」とけたたましく廊下を走り呼びに来てくれる。当然の事ながらその呼び声がないままPCに向かっていたら、知らぬ内に時計の針は10時を示すところまで来てしまっていた。その頃になると昨晩、夜更かしをしていた坊主も「のそのそ」と起きてくる。

 

台所へ向かったかと思うと、踵を返し此方までやってきて、

「めし食わんの?」

と頭を掻きながら訊いて来た。

「いや、呼ばれてないし。用意出来てるのか?」

と逆に聞きかせすと、

「誰もいねぇよ」「えっ?うそ」

 

「えっ?」どころじゃない、

「え──────────っ?!」だ。

瞬く間に憤りを覚える。

 

ったく、出かけるなら出かけるで「行って来ます」のひと言でも言っておけっつーの。まぁいい。あと数時間もすれば昼食の時刻だ。坊主にもそれまで我慢させることにした。

 

空手をやっていた時の師範が「味噌カツ屋」をオープンさせた。お祝いは出したが、不義理にもまだ顔を出していなかったので坊主と二人で行ってみることにした。坊主もまた小学校、中学校とその師範に教えてもらっている。いわば自分とは兄弟弟子だ。意気揚々と、

「頼もう!」

と乗り込み、美味しくなかったら看板を外し持って帰るところまでを頭に描き、店に着き駐車場に車をとめ、いざ店に入ろうとしたら、

 

「誰もいねぇじゃん」

 

もちろん店の戸には鍵がかけられている。看板も出ていない。

 

さては臆したか!…と、などと冗談で済めば良いのだが、真相を突き止める勇気も無かったので直に理由を聞くことは差し控えさせて頂いた。

 

儚くもランチ難民となってしまった哀れな父子を優しく導いてくれたのはそこから数キロ離れた先にある「中華名菜 成華」という名の店だった。

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中華名菜「成華」


初めて訪問する店だったが、スタッフのホスピタリティが実に素晴らしく、肝心のお味はといえば驚きのハイレベルだった。

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スープに始まり…

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メインは「鶏肉の生山椒炒め」&「ゴボウの煮物」と「サラダ」「ごはん」「ザーサイ」

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デザート「タピオカヨーグルト」




いやぁ、まだまだ世の中、知らないことばかりですねぇ~。

 

夕方、娘達を嫁の実家まで迎えに行くと、案の定「きょう何食べた」とドラマのタイトルをもじったかの様に訊いてきた。毎回のことだ。そんな時はその都度『牛丼』と答えることにしている。正直に言うと「私たちよりもイイもん食べた!」とやっかむからだ。

 

「牛丼か、そんならいいゎ。あのね、私ら昨日『蟹』食べたよ。美味しかった~」

 

って、おい!

その『蟹』ってひょっとしたらひょっとして、オレが義父母にお歳暮で贈った松葉ガニじゃねぇの!そりゃ、美味いだろうよ…なにせタグ付きの松葉ガニだもん。そんな事も知らずに微笑む娘達は可愛いけれど、可愛いけれど喉から腕突っ込んで胃袋を掻き回してやろうかと一瞬思ってしまった。

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