「神戸ビーフ・但馬牛 応援キャンペーン」の成れの果て
「ただいま~」
と夜中に帰宅すると、玄関先に何やら空箱が打ち捨ててある。
「ちっ、だらしねぇな~」
もちろん言葉の矛先は娘達の母親だ。
「ちゃんとゴミ箱に捨てろよな」
とわざとらしく大声で独り言を呟いたった。大声で呟くとはこれ如何に。つまり普通に言い放った。
拾い上げ、ふと宛名を見ると自分の名前になっている。ん?どういうこと?
「あのさぁ、中身がなんなのかはわからないけど、俺宛てに来ている荷物を勝手に開梱するってどうなの?」
あまりにもムカついたので今度こそは大声で叫ぶが如く言い放つが、心の中でのことなので誰の耳にも入らない。仕事明けで疲れているし、面倒くさいからもう波風は立たせたくないの。
しかし、何が入っていたんだろう?買い物をした覚えもないし、誰かに贈り物を頂く覚えもない。箱の中の紙に何か書いてある。
「神戸ビーフ・但馬牛 応援キャンペーン」?
ひっくり返すと「感謝状」とあり「当選おめでとうございます!!この度は、神戸ビーフ・但馬牛応援キャンペーンにご協力頂きまして、誠にありがとうございました」とあった。
「おぉぉぉ~っ!やったじゃん!当選してんじゃん!」
何だかわかんないけれど、何かに当選してるよぉ~。とにかくこの感動を誰かに伝えねば!
なんだよ、近くには娘達の母親しかいないじゃん。まいっか。取り敢えず冷静に冷静を装って穏やかに訊いてみる。
「これの中身はどうした?」
「冷凍庫に入れてある。箱に冷凍と書いてあったから」
なるほど、勝手に封を切ったのにはそういう理由があったのね。
「なんか当たったみたいだな」
「うん」
うん?うんの二文字?もっと、こう何かその喜びを全身を使って表現するくらいのバイタリティというか、俺に気を遣うというか、そういったもんはお前には無いのか?
「なんだ、嬉しくないのか?」
この時点では中身がなんだったかをまだ自分は知らない。そこで冷蔵庫へ行き冷凍庫を開けてみると「神戸ビーフのハンバーグ」がそこにあった。
改めて娘達の母親に
「いいじゃん、ハンバーグ。それも神戸ビーフだぞ。滅多に口に出来ないだろ」
と、ハンバーグに向かって「頭を垂れてつくばえ。平伏せよ」的なニュアンスで当選したことを自慢してみた。
「あのさぁ、うちは何人家族?5人家族だよね?そんなところにたった二つだけ贈ってこられてもどうせぇちゅーの。いらんゎ。誰かにあげていい?」
なんか似たような話がつい最近あったな。あれはどこに行ってしまったんだろう?
酷い言い方だな、とは思ったものの、
「確かに。でもあげるのは勿体無いから、せめて俺以外の4人で分けて食べたらいいよ」
と大人対応をしてみせた。とはいえ、少なからず当選者の口にも入る事になるだろう。
後日、坊主の弁当のおかずとして二日間で消え去ったことが判明した。どうせ、俺なんてそんなもんさ。しかし、いつこのキャンペーンに応募したのかが未だに不明だ。