氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

「鼻血ブーの記憶」

PCの写真を整理していたら、懐かしい絵が出てきた。題して「鼻血ブーの記憶」

 


久しぶりに鼻血ブー!なにも秋の夜長にエロ本を読みふけったりマカ王を大量に摂したわけでもなんでもない。外的刺激、要するにぶん殴られたからだ。

 

「クズ!人でなし!もうLINEも電話もして来ないで!バシッ!」

「イタタタタた…」

 

なんて色気のある話ならばまだ酒の席での語り草にもなるだろう。ところがどっこいこいほいさっさ、そんなわきゃあらしまへん。拳と拳の熱きぶつかり合い、要は空手の稽古中に起きた出来事だ。

 

師範とのスパーリング中、左のボディフックを狙いにいったところを顔面のガードが甘く師範の右のストレートがカウンター気味に炸裂。クリティカルヒットを喫してしまい敢え無くKO。

 

鼻を殴られた経験者ならばわかると思うが、何故か目に涙が溢れまくる。タオルで涙を拭っていたら、次第にそれが赤く染まり出し、

「あ、鼻血」

とそこで気がついたわけだ。

 

「ちょっとトイレに行って来ます」

スポーツバッグをあさっても、所持していたと記憶していたティッシュペーパーが出てこない。致し方なくトイレットペーパーを求めにトイレへと走った。

 

適量をくるくるとまとめて左の鼻の穴に一先ずねじ込み、血で汚れた手を洗おうと洗面台に立ったとき、目の前の鏡に映った我が顔を見て吃驚仰天!

「鼻曲がってんじゃん!」

 

となれば稽古どころではない。

「医者行って来ます!」

慌てて自宅に戻り先ずは近所にある夜間診療のある総合病院に電話をした。

「すみません。殴られて鼻が曲がっちゃったんですが診ていただけますか?」

「事件ですか?」

「事件というと?」

「いや、喧嘩をしたとか通り魔にあったとか…」

「でなくて空手の稽古中の事故です」

「あ、そうですか。ちょっと訊いてみます。お待ちください」

 

「お待たせしました。鼻ですと耳鼻科になるのですが、この時間は耳鼻科の先生がいらっしゃらないのでうちでは対応しかねます」

「へっ?整形でなくて耳鼻科なんですか?」

骨折が疑われるということでてっきり整形だと思い込んでいたのだが、骨折とはいえ鼻のことなので耳鼻科の管轄になるのだとか。

「へぇ~」

などと感心していられる余裕もなく、取り敢えずレントゲンだけでも撮ってもらえないかと地域で古くから医院を営んでおられる子ども達のかかりつけ医に電話をしてみた。

 

「一応来てみて」

時計の針はすでに八時半を回っている。申し訳ないとは思いながらもお言葉に甘え急いで駆けつてはみたが、時間も遅くレントゲン設備が使えないということだった。その代わりに大学病院や市民病院に顔が利くからと自ら受話器をとり伺いを立てて下さり、

「これがないと高くつくからね」

と紹介状をも書いて頂いた。本来は有料のところそれも無料で。

 

「お代はいいよ」

更に診療費も要らないと言われるものだから、平身低頭、医院を後に紹介を受けた市民病院へと向かった。耳鼻科医は既に帰宅し不在だったが、必要ということならば出てきてくれるということだった。

 

夜間担当医は女医だった。マスクで顔の半分を覆い目しか露出はしていなかったが、そこだけで判断するに中々の美人。しかし風邪を召していたのだろう、CTスキャンの結果を説明しながらも四六時中咳き込んでいた。

「結果から言いますと、折れてますね」

「あ、やっぱり」

「はい、ただ呼吸が出来無いとか重篤な症状でもありませんし、もう血も止まっているということですので、今日はこのまま帰って頂いて明日改めて耳鼻科の先生に診てもらって下さい」

「あ、やっぱり耳鼻科なんですね?」

まだ鵜呑みに出来無い自分がいた。

 

翌日、耳鼻科の先生に曲がった鼻を治すことが出来るのかと問うと、

「出来ますよ。こう鼻の穴に金属の棒を入れてグイッグイッってやるんですけれど、2週間経つと治すのが難しくなりますので、気になるのであれば来週辺りにまた来て下さい」

とのこと。

〝鼻の穴に金属の棒を入れてグイッグイッ、てか…。簡単に言ってくれるけれど、それって相当痛いんじゃないの?〟

痛みと見栄えの損得勘定。結果、多少見栄えが変わってもこの歳だしまぁいいや、ということで放置してしまったのだが、人間の身体というものは計り知れない修正力があるのか、今現在は言われて初めて気が付く程度に元通りとなっている。めでたし、めでたし。

 

で、その時に次女がからかって描いてくれた似顔絵なのだが我ながら実によく似ていると思う。

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鼻血ブー