サンセットビーチで彼女の笑顔にほだされる
とある用事を無理やり作り、その日の私は水の都で有名な岐阜県大垣市にいた。岐阜市民にとっては大垣市くんだりだね。とはいえ、母方の実家がここ大垣市にある自分にとり、まさに第二の故郷ともいえる。もう片方は高山市なので言ってみればハーフだ。かくいう私は岐阜市生まれの岐阜市育ちだから生粋の岐阜市民だ。
そんな自分の個人情報など聞かされても全く楽しくはないと思うので話を変えよう。そんな異国の地でモーニングサービスを受けてみようと立ち寄った喫茶店は昭和の臭いがプンプンと漂う「カフェラウンジ サンセット87」だ。
予め言っておくが、ここに来ることを目的として大垣市に来たわけではない。たまたま通りかかりその見た目に篭絡されたからだ。
店内に入ると、先ず得体の知れないぬいぐるみに出迎えられる。
「お好きな席にどうぞ」
口元はマスクで覆われているので全ては把握できないが、目元だけで判断するには若くて綺麗なスタッフだ。背後を取られるのは嫌なので南西の角席を選んだのはゴルゴ流。
オンテーブルされたメニューには「サンセットのモーニングセット」と書かれてあった。
“おっと、こりゃやっちまったかな?”
どうやらモーニングサービスは別料金のようだ。入ってしまった以上は仕方がない。ならばと+300円の玉子トーストを選択した。写真を見るとベイクドエッグサンドだ。自分はベイクドエッグよりもぐっちゃぐちゃのケチョンケチョンに潰したボイルドエッグサンドの方が好きなのだが、まぁ郷に入れば郷に従うこととしよう。多分、大垣市のデフォはベイクドエッグサンドなんだ。
先ほどの可愛い彼女がプレートに乗ったモーニングサービスを持って登場。
「お待たせしました」
とオンテーブルされたそれは、写真から想像出来ないボリュームだった。
いや、ちょっとサラダ大杉漣でしょ。ベイクドエッグサンドの食パンも分厚過ぎるし。
先ずはサラダから着手するが、全て食べきった頃にはサラダだけでそこそこの満腹感が得られてしまった。
ふと隣を見ると、御婦人が半分に切られた厚切りトーストとゆで卵、そしてサラダを召し上がっていた。あれ?あれれ?どうやら自分は大きく勘違いしていたらしい。普通にコーヒーだけ頼めばちゃんとモーニングサービスが付いてくるのね?こりゃ、父さん一本取られたな。
ひとつがマックバーガーくらいのベイクドサンドを二山片付けたところでギブアップ。そこで綺麗な彼女を手招きし、
「これってお持ち帰りできますか?」
と尋ねると、してやったりとばかりに右側の口角をキュッと上にあげ、そしてニヒルな笑みを浮かべると、「はい」と答えアルミホイルを持ってきてくれた。
「何名様?ただ今、満席ですので暫くお待ち下さい」
ママさんかと思われる女性が来店客にお断りを入れている。ふと、見回すと、ざっと5〜60席のキャパがありそうな店内だったが、知らぬうちにお客で溢れていた。こりゃ、長居は無用と席を立つ。
アルミホイルを返すついでに綺麗な彼女に、
「もう、サラダだけでお腹いっぱいになっちゃったよ」
と笑顔を向けると、「くすっ」と笑みを返してくれた。まだ時刻は午前9時だがいい1日だった。