氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

耐え難く軽い存在のわたし

雪だ、寒波だ、温泉だ!違う!!!

 

夢と希望が入り混じった妄想まがいの巻頭文はここまでです。たった1行を文と呼べるのかどうかはさておいて。

 

このクソ年末のクソ忙しい時に寒波だと?!

どの口がほざいてやがる、って天変地異に文句をたれても仕方がないことながら、市場は大変なことになっている。東北方面のみならず、各漁港から船が出せぬと早々に連絡が入り、こりゃ明日の市場は荒れるぞと覚悟を決めておいたところ案の定、魚介類の入荷が極めて少なく、となれば物の取り合いが生じ挙句、殴るゎ蹴るゎと阿鼻叫喚の地獄絵が繰り広げられ惨憺たる結末を迎えるに至った。

 

結果、3名が救急車で運ばれ逮捕者が十数人に及ぶという、前代未聞の事件へと発展した、かどうかは知らんけど。ま、とにかくそれほどまでに年末の寒波というものは我々飲食業界に悪影響を及ぼすのだ。こうなったら四の五の言っていられない。多少、価格が高かろうが引っ張るだけ引っ張って後々、帳尻を合わせる。よって年末から新年にかけては「もってけドロボー」で右から左の儲けなし販売が展開される予定は未定。

 

取り敢えず天然のクエは押さえた。

 

そんなシッチャカメッチャカの末に納品を済ませ、自宅に戻る頃には午前9時を既に10分ほど回っていた。冬休みに突入した娘たちはまだパジャマ姿だ。

 

「いいなぁ、お前らは。お父さんはもう疲れたよ」

「え、なんで?」

「なんでって、夜も遅くまで仕事してること知ってるだろ。にも関わらず朝は5時前に起きて仕入れに行ってるんだぜ。で、帰ってきたらもう、こんな時間。もう、泣きたくなるゎ」

「まぁまぁ、そう言わずに。これあげるで」

とくれたのが新発売らしい「レモンチーズタルト」だ。

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「ありがと、ってこれ…」

裏を返してみると想像通り安定の消費期限切れだった。

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もう、それくらいの事ではびくともしない。

 

「ところでクリスマスケーキは?」

多少は購買者に配慮があって然るべきだろう。いや、きっと配慮してくれているだろうとは思いつつ、いやらしいとは思いながらも訊いてみたところ、

「ん?全部食べたよ。ごちそうさま」

やっぱりな。訊くだけ無駄だった。

 

「その代わりこれ食べていいで」

と指差す先には骨付きの鶏もも肉だ。ローストしてある。

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「ありがとな。でも、これ買ったのもお父さんなんだけどね。なんでもいいけど汚ぇ皿だな」

「あぁ、私が使ったお皿。これでいいゎ、ってお母さんが」

 

ちったぁ気を使ったらどうなんだ、この家の人間たちは!

 

で、チーズタルトは食べておいた。

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