「ぼかぁね、純な喫茶店のことを純喫茶だと思っているんだよ。いいだろ?」by加山雄三風
♪いらかのなぁみぃ~とぉ~、ふふふふふんふんふん~♪
純粋で純朴かつ純情な僕ちゃんには純喫茶がお似合い。ってことで、職場からほど近い、昭和の香りがぷんぷんと色濃く残る「純喫茶 甍(いらか)」に行ってみた。けしてここに行くことが目的ではなく、朝っぱらからやんごとなき理由で職場にとどまらなければならない理由があり、朝食を兼ねての時間つぶしに伺ったというわけだ。
「たのもう!」
勢いよくドアを開ける。客席に人らしい姿もそれ以外の姿も見受けられない。客席どころかカウンター内にもそれらしい人がいない。つまり店主不在というわけだ。
いずれ戻ってくるだろうとソファタイプの座席に腰を下ろし待つこと5分。
さすがに様子がおかしい。
「すみません!」
声を上げてみる。反応がない。二度三度と繰り返すも全く物音どころか返事も聞けず。こうなりゃ仕方がない。諦めて店を出るか、と出口へ向かう途中のカウンターに、張り紙になにやら書かれた文言を発見。
「奥にいます。御用の方は電話の内線ボタンを押して呼んで下さい」
なるほど。そういったシステムなんだな。回転寿司等で見られるスタッフ呼び出しボタンと一緒ということか。こりゃ、システムを把握していなかった自分に落ち度があったわい。ってことで内線ボタンを遠慮会釈なしに連打した。
すぐさま「バタバタバタ」と音がし、二階から人が下りてくる気配がした。
「いらっしゃいませ」
もはや七十路絡みだろうか?上品な女性が顔を覗かした。
「あ、すみません。コーヒーをお願いします。ホットで」
「はい、モーニングはどうされますか?」
「お願いします」
和む空間だ。バックミュージックもテレビの音も何もない。ただ、カウンターの中でカチャカチャと作業をしている音だけが聞こえる。
「お待たせしました」
ホットコーヒーにお茶菓子がオンテーブルされる。コーヒーカップは「甍」の印が刻まれた当店オリジナルだ。猫舌なので舐める様にコーヒーを味わう。
5分経過。そろそろ…かな?モーニングサービスは。
10分経過。いくらなんでもゆっくりだよね?
「すみません。モーニングは…?」
「あら、ごめんなさい。要らないと仰ったかと。直ぐお作りしますね」
オレ、要らないって言ったっけ???まぁいい。もう少々、待とう。
それから約5分後にトーストとゆで卵が登場した。
実にシンプルだ。ガチャガチャしたモーニングが喜ばれる昨今、これこそがまさしく「純」喫茶のオーソドックスなスタイルで喫茶界の王道とも言えるのではなかろうか。どうやら慌てて卵を茹でたらしくゆで卵はチンチンだ。あ、チンチンはこの地方の表現で「熱い」を洗わすので誤解なき様。
時間も押してきていたことなので、一気呵成に平らげると時計を睨みつつ店を出る。帰り間際に営業年数をお訊きすると、
「さぁ、母親がやっていたのをそのまま受け継いだんですけどね、どれくらいでしょ?50年くらいかしら?」
とのことだった。50も超えれば自分の年齢ですら忘れることも当たり前なので、いちいち営業年数など覚えてはいられないってことなんだよね。自分がいる間にただの一組も来客が無かったのが少々、気がかりではあったが、この店のシステムも把握したことだしまた時間がある時にゆっくりしようかと思う。