氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

モーニングサービスに「全部つけていい?」と訊かれる@「カフェ・ジュララ」

その日は真っ直ぐうちに帰りたくなかったんだ。

 

とうとう岐阜県にも「まん防」が施行され禁酒法時代に突入した。つまりその事によりまたしても休業を余儀なくされ、となれば仕入れの為に市場に通う必要もなくなる。これはまだ1人の男が足繁く市場に通っていた時の物語である。

 

うちに帰りたくなかった理由はただひとつ。娘たちの母親がその日は仕事が休みで自宅にいたからだ、なんてことは大きな声では言えないが、小さな声では聞こえない。まぁ、つまり人には様々な家庭の事情というものがあるのだと理解していただきたい。

 

それではひとつ、「モーニングおじさん。」として日本の未来はオゥオゥオゥオゥしてみましょうと、たまにはシャレオツな喫茶店をと選んだのが「ジュララ」だ。

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実はこの店、モーニングマニアにはそこそこ有名な店らしく、つい先日もマスコミの取材を受けテレビで放映という名の宣伝がなされたらしい。ただし自分の名誉の為に言わせてもらうが、自分が訪ねたのはその放映よりも以前のことなのでけしてマスゴミに踊らされたわけではない事を先ず、お知りおきいただきたい。

 

先客はカウンターにひとりのみ。そのお方もそうそうにお引き取りになり自分ひとりの貸切状態となってしまった。

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自分よりも十歳ほど若い女性がオーダーを取りに来る。もうひとりのスタッフは年配の女性だ。

「すみません。ホットコーヒーを下さい」

「はい、モーニングはどうされますか?」

「はい、お願いします」

「全部つけていい?」

「はい」

 

え?全部?勢いで返事をしてしまったが言葉の意味がよくわからない。しばらくするとコーヒーよりも先に小さなおにぎりとお椀から溢れんばかりに具が入った味噌汁が配膳された。

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ほう、ここのモーニングはジャパニーズスタイルなのね。ただ玉子が無いのが少々寂しい。ただ食事の前にコーヒーをひと啜りしたかったので、まだ箸をつけずにコーヒーが来るのを待っていた、ら、コーヒーと一緒に登場したのは「なんじゃこりゃ!」だった。ここで「全部」の意味を知る。

 

「うわっ!マジすか…」

思わず漏れる吃驚の声。

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「あら、お兄さん、うちは初めて?」

「はい、初めてです」

「あ、そう。ゆっくりしてらしてね」

 

はい、そうさせてもらいます。改めてコーヒーの価格を見る。何度見ても430円だ。そりゃ、こんな事をやってればテレビの取材も来るわな。ただ、大食漢の自分のことだ。当然のことながらペロリとまではいかないまでも完食させていただいた。ま、その代わり昼は抜きだったけどね。

 

「まだ最近、始められたばかりなんですか?」

「いや、もう長いわよぉ~、20年は経ってるかな?」

年配の方の女性がどうやらオーナーらしい。

「え、でも店は綺麗ですよね?」

「前はね違う場所でやってたんだけど、ビルのエレベーターが使えなくなって移転に迫られたの」

エレベーターを使わないと利用できない店だったのだろうか?

「お兄さん、また来てね」

「はい」

明らかに年上の女性に「お兄さん」と呼ばれるのはアレだけど、気さくで明るいママさんだった。「まん防」が明けたら市場の帰りにまた寄らせていただこう。勿論、冒頭のタイミングでだが。

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