それ、気づかんのやのうて見えとらんのやないか~
「魚はあるか?」
開店と同時にひとりの男性が入店。そして自分の目の前のカウンターに座る。
「はい、色々とありますよ」
毎朝、市場へ仕入れに出向いている。こと魚に関しては地域でもナンバーワンを自負している。それを記した「本日のおすすめ」を渡すと距離を10cmほどに縮めジロジロと見ていた。近視なのだろうか?
「じゃ、『もずく』をもらおうか」
それ魚じゃないです。とはいえオーダーはオーダー。快く「ありがとうございます」と謝意を述べつつ伝票に書き加える。
「免停くらってまってな」
盛り付けをしているといきなり話し出す。自分に向かって話しているのか?
「人、跳ねてまってさ」
どうやら相槌を打った方がよさそうだ。
「それは大変でしたね」
「婆さんやったけど、こっちも気づかへんし相手もこっちのこと気づかへんもんでな、お互いに気づかんままバーンってやってまって、あ、こりゃ、死んだなと諦めたら生きとった」
「それは良かったですね」
「ほりゃ、ほんと良かったて」
初対面の相手にする話か?話は続く。
「その前は自損事故や。煽られてな、ハンドルを切ったら山林にドカンや。で、人身事故とで合せ技一本や」
「あぁ、なるほど」
「で、留置所に2日間入れられたゎ。ただ、あかん、留置所は。飯っていったらパンが2個しか出てこんのやぞ」
「それではお腹が減りますね」
「ちゃうちゃう、そういうことやない」
何が言いたいのだろう?
「パンっていったら糖質やろ?さっき、おれ薬飲んどったやろ」
確かに薬が飲みたいからと最初に水を要求された。
「あれ、糖尿病の薬なんや」
「そうなんですか。だからパンがダメなんですね」
「ほーや」
でも、ビール注文したよね?
「白内障とか大丈夫ですか?」
ひょっとしたらと思い訊いてみた。
「白内障、入っとる入っとる。だからメニューもよう見えんのや」
目を近づけて見ていたのはそれが理由か。
てゆーか、それが事故の原因なんじゃないの?自分も白内障が最近の悩みとなっている。出来るだけ早めに手術をしようと背中を押された。
糖質はカットする時代から活かす時代へ。現在、お試し中(笑)