氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

武士は食わねど高楊枝

ファストフード店にしては如何にも違和感がある光景だった。

 

先ず、テーブル上の下げものが多く残されている。着座している客にしても箸を持つ者は殆どおらず、当然、目の前には注文したであろう食事がまだ運ばれていない。

 

4名席が空いていたが、やはりテーブルの上には空いた器がそのまま残されている。スタッフが片付けに来るのを娘ふたりと暫し待つことにした。

 

「ねぇ、まだ?どれだけ待たせるの!もう30分も待っとるよ!お茶も出てこんやないか」

警備員風の制服を着た男性が怒鳴り声をあげる。休憩中で時間に追われているのだろうか。

因みにお茶はセルフサービスだ。

 

「大変申し訳ございません。もう少々お待ち下さい」

若い女性スタッフが絞り出す様に応答し代わりにお茶汲みをしていた。その彼女が目の前を通り過ぎようとしたので、

「ここいいですか?」

とテーブルを指差し尋ねると、平身低頭に詫びを入れながら片付けてくれた。その際、先に食券機で買った食券を渡すと、

「申し訳ございません。3~40分お待ち頂くことになりますが」

ファストフード店にはあるまじき驚愕の言葉が返ってきた。

 

ふふふ。おもしろいじゃないの。

 

「はい、いいですよ。待ってます」

自分は良いが娘たちは退屈だろうとスマホを渡すと、ふたりしてゲームに興じていた。そして自身はといえばほぼ趣味のマンウォッチングに勤しむ。なるほど。どの顔もイライラしている。

 

自分よりも先に着座していたご老人がみえた。スタッフが近寄り話しかける。

「すみません。食券はお持ちですか?」

「は?なんや、それ?そんなん知らんぞ。メニューは?いつになったらメニュー持ってくるんや?」

「はい、すみません。少々お待ち下さい」

 

奥へ引き込むとどこからかメニューを持ち出し、その場で注文の「焼き肉定食」の代金を受け取っていた。

 

「おい!こっちまだか!早くしろよ!」

 

「ねぇねぇ、なんか自分よりも後から来た客の方が先に出てるんだけど」

 

あちら此方の席から請求が飛び交う。その都度、

「大変、申し訳ございません」

と女性スタッフが頭を下げ応対していた。

 

我が家の元にも、やっと料理が届いた。もちろん、最大限の詫びの言葉と共にだ。娘ふたりが「牛丼」の並、自分はその店が「世界一美味しい料理」と宣伝する「マッサマンカレー」だ。

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当初からそれを目当てにしていたので、服装は薄着で向かった。しかしながらタイのカレーとは思えぬほど辛味がない。世界一かどうかまでは言えぬものの、確かに期待以上の美味さだった。しかしながら、この店が流行らせたジョージア料理「シュクメルリ」にしろ、今回の「マッサマンカレー」といい、頑なに汁ものが味噌汁なのにはジョークさえ感じてしまう。

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「ごちそうさま」と店を出る。実は嫌味に提供までのタイムを測っておいた。「牛丼」まで約21分。「マッサマンカレー」までは約26分。

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当初、

「3~40分お待ち頂くことになりますが」

と言われていたので、ちゃんと努力のあとが見られたということだね。

 

「人がいなくて忙しいのは見てわかるやんね!あんなに酷い言い方しんでもいいのに!いい大人なのに少しは待てんの!」

と次女が憤っていたが、

「まぁ、飲食の経験がない人にはわからないかもね」

となだめておいた。ま、確かに待たせすぎは待たせすぎだけど。

 

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