健さんや文太に見る懐かしの「晒し」の思い出
あっち系の人の離婚調停に着手したが故、いつ刺されてもいいように晒しを巻いて通勤している弁護士の話をとあるブログで目にした。
中二の秋、あまりにも理不尽な上級生からの暴力に耐えかね、逆にこちらから教室に乗り込んでいってやろうと密かに鉄パイプを教室に忍ばせていたことがある。当然、返り討ちに合う可能性もあった。なにせ相手は身長180cm超、こちらは成長期とはいえ170cm未満。加えて別の上級生から、彼は「空中二段蹴り」とう必殺技を持っていて、その技に勝てたものは未だかつて一人もいないと聞いていた。
友人にその話をすると、我も助太刀致すとアドバイスをくれた。因みに彼は空手の有段者ということだったが、その実力を知るものは唯のひとりもいなかった。いわゆる自称という奴だ。彼曰く、喧嘩をするには先ず身を固めよ、腹に晒しを巻け、とのことだった。
当時の愛読書に本宮ひろ志の「男一匹ガキ大将」があった。アニメにもなった迷作だが、たかが中学生がその生まれ持った人間性や才覚により、日本全国の不良学生を束ね、末は大人相手に株の世界で仕手戦を繰り広げるといった荒唐無稽な話だ。登場する学生は特徴として、学ラン姿に学生帽、学ランの下は素肌に晒し姿といった出で立ちだ。中二の男子といえば恐らく一生のうち一番お馬鹿なときだろう。それ故にその姿を想像しただけで痺れたものだった。
そこでさっそく、一番身近にあった名古屋鉄道が営む総合スーパー「忠節ショッピングセンター」へ買い物へと出かける。因みに「忠節ショッピングセンター」は名鉄揖斐線、ならびに岐阜市内を走る路面電車が廃線となる5年前、今から20年前に姿を消した。で、そのショッピングセンターでのお買い物である。
一体全体、「晒し」ってどこで売ってんだ?友人とふたりでセンター内をくるくる回るもそれらしき商品はどこにも置いてない。致し方なし、店員に聞くことにした。
「すみません。晒しを探しているんですが、どこにありますか?」
「晒し?晒しって何かな?」
「あの大きな包帯みたいなもので、お腹にクルクルと巻く…」
「あぁ、あれね。こっちこっち」
と女性店員に案内され辿り着いた先で、ビニール袋に入った白い布を手渡された。
「多分、これだと思うけど…」
表には大きく「犬印妊婦帯」と書かれてあった。
「おい、これでいいのか?」
小声で友人に尋ねるも
「いや、わからん。取り敢えずこれでいいんじゃないの?」
ということでわけのわからぬまま購入。ただ、中身は白く幅広の包帯状のものだったので、たとえ健さんや文太が巻いていたものと同じでなかったにしても、代替品としては十分に成り立つものだった。翌朝、さっそくそれを腹に巻き、学ランの下は晒し1枚で通学した。
その姿を友人に見せるべく教室を尋ねると、彼は彼で気をきかせ、少年ジャンプだかマガジンだかをこっそりと自分に手渡し、「それを腹に一緒に巻け」という。そうすれば殴られても痛くないし、万が一、刺されることがあっても防ぐことが出来るといった理由だ。仰せの通り漫画本を腹に巻き、これにて準備万端、いざ敵地へ行かん!となった時に横槍が入った。担任だ。おまけにまだ20代の女だ。
「ちょっと、噂で聞いたけれど変なこと考えてないよね?」
「噂ってなんすか?」
「3年生の教室に殴り込みに行くって聞いたよ」
(誰じゃ、漏らしたのは)
「お願いだからやめてね」
「そんなこと言われても先に手を出して来たのはあっちだから」
「お願い、やめて」
とうとう泣かれてしまった。女の涙には弱い。中二でしたが。
「今回は先生の顔を立ててやめておきますが、今度、向こうから手を出してきたら我慢しませんよ」
とその場は格好良く締めくくり事なきを得たが、今となっては止めてもらって本当に良かったと思う。因みにその女教師は未婚者だったが、まだ担任を受け持っている途中だというのに「できちゃった」とかでとっとと学校を辞めてしまった。40年以上も前の話だ。すばらしく異端先端を行った所業じゃないか。せっかくだから「犬印の妊婦帯」を嫌味にプレゼントしてやればよかった。
異端といえば昨日食べたレンチン「味噌ラーメン」は腹が立つほど異端だった。レンジで温めるだけのラーメンではあまりにも無理があると思う。