たかが100円、されど100円
「お茶でも並べておけば弁当のついでに買う人も中にはいるだろう。多少でも売り上げの足しなれば…」
と目論見を立て、大きな声では言えないが小さな声でも言えない某スーパーで買ってきたペットボトル飲料を常時、置いておくことにしてある。販売価格は1本100円だ。コンビニへ買いに行く手間も省けるし、何よりもそこらの自販機で買うよりは安く買うことが出来るはずだ。
更に声を小さくしてここだけの話。ほうじ茶の仕入れは1本63円。緑茶と麦茶に至っては1本39円、いずれも税別となっている。例えお茶が売れたところで儲けは雀の涙程度しか見込めないが、このご時世だ。雀の涙でさえ喜ばしいことではないか。
ということで大量に購入してきたものの、全く売れない。未だ儲けが仕入れ値を超えることがない。お茶だけで考えるならば今のところ大赤字だ。このままコロナが終息してめでたく弁当業務から解放されたとしても、お茶だけ売れ残ってしまうのではないかと懸念している。
そこでただテーブルに並べているだけだったのを、わざわざ木の樽を用意して氷水を張り演出を凝らしてみた。
冬場はともかくとして、これからの季節はこうしておいた方が自販機で買うよりもコンビニで買うよりも余程冷え冷えの状態で提供出来るだろう。それに店先に置いておけば見た目に清涼感が漂う。ここに風鈴の音色でも加われば更に購買意欲もニンニクマシマシヤサイマシカラメなことだろう。ん~、何を言っているんだろう。
「すみませーん」
男性客がひとりで現れた。如何にも会社勤め風、ただガッシリとした体型から何かスポーツでも嗜んでいるかの風体だ。見た目は爽やかだが、体臭が気になるのだろうか、やけに香水の匂いがキツイ。
「これ下さい」
とお茶を樽からすくい上げた。そして5千円札を財布から取り出す。
「お弁当のご注文は?」
「いや、これだけでいい」
「あ、はい。100円になります」
濡れたペットボトルをタオルで拭き、お釣りと共に渡すとそれを受け取り何も言わずに立ち去った。
ん~、なんだろ、この虚無感は。一番高いほうじ茶63円(税別)を持っていかれたからか?弁当だけが商品ではないのだから文句をつける道理はないはずなのだが、やはりきっとアレだ。
『両替お断りします』と書いて貼っておくべきかも。