氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

バス利用・夜道のエレジー

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日曜日の夜に街中へ繰り出すことなどかつてあっただろうか?

とある理由により昨夕は街中、具体的にいえば駅前飲食繁華街に身をおくこととなった。アルコールが入ることが想定されたので交通手段として路線バスを選んだ。

「お客様の中で5,000円を両替出来る方はいらっしゃいませんか?」
学生風の男子を傍らに運転手のダミ声が社内に広がる。どうやら小銭至上主義の路線バスにあってその学生(風)は両替可能な1,000円札以下の持ち合わせがないらしい。

あいにく自分も470円の片道運賃きっかりと、あとは大枚の持ち合わせしかなかったので挙手することは出来なかったのだが、後方にいた男性客の「あります」の声に車内の緊張は途端にゆるみ一瞬の安堵感に包まれたのであった。

しかしながら今後どんどんと浸透するであろうキャッシュレスの波に抗うかの様に、現金、若しくは独自が発行するそのバス会社でしか使えないプリペイドカードのみでの決済は実に不便極まりない。時代の潮流に乗り遅れること必至と勝手ながら先を危ぶむのであった。

しこたまアルコール漬けとなりほどよい気分で帰りのバスを待つ。ポケットには行きと同料金の470円が入っている。バスを利用する前に予め片道運賃を用意しておくのを自分の流儀としている。

「お客さん、お客さん、終点ですよ」
行きのバスのそれとは違い、優しく穏やかで木綿の様な声のアナウンスで目が覚めた。これで終点まで乗り過ごしたのは何度目だろう。街飲みに代行運転を使わなくなってからというもの、自宅近く停留場にジャストミートした確立は凡そ2割あるか無いかだろう。つまりバスを利用し帰宅する殆どが終点までの乗り過ごしということだ。

「あ、すみません。ん~っと、料金幾らになりましたっけ?」
「520円です」
ポケットの470円に足すべく焦り財布の小銭をあさる。(やばい、足りない…)

「すみません。10円足りません。あとは大きいのしか持ってなくて…」
「じゃ、次回利用することがあったら10円余分に入れておいて下さい」
行きも帰りも運転手の機転により難を逃れたという、実に稀有な出来事を体験させてもらった。今後、バスタクシーも自動運転となればこの様な融通は効かなくなるだろう。

「よし、これから帰りのバスは520円きっかり用意しておくぞ」
と固く胸に誓い、殆ど街灯のない終点からの夜道、約3kmをトボトボと歩いて帰ったのであった。