需要と供給が極めてアンバランスな僻地のカフェバー
命からがら「舟伏山」から下山すると、そう、登山のあとは常道だよね。温泉セットはちゃんと車の中に用意されている。ただ近場に温泉施設が無いので少々遠回りを強いられるが、まだ時間は午後2時だ。これを業界用語で「余裕のよっちゃん」と呼ぶ。何業界かはこの際、置いといてだ。
車が1台しか通れない、すなわちすれ違うことも出来ない狭い村落の道を下っていくと、違和感しか得られない横文字の看板が目に入った。
「Phin and Bean」
ん?「Phin」ってなんだ?名前の意味はわからないが、どうやらカフェのようだ。無性に好奇心がくすぐられる。だって、山県だよ。しかもこの辺りは僻地中の僻地だ。人が住んでいるのかさえ疑わしい。まぁ、御託はここまでにして先ずは入ってみよう。
中々シャレオツな内装じゃないか。入り口の正面にはカウンターが設えてあり、洋酒やリキュールのボトルが置かれている。
アルコールも提供するということはカフェバーか?誰が飲みに来るんだよ。住人がいるとしたならばドレスコードなんて言葉すら知らない連中ばかりだぜ。
先客が2名いた。カップルだ。温泉へ行く途中で道の駅に寄ってスイーツを堪能しようかとも思ったが、メニューを見るとワッフルがあったのでそれを注文してみることにした。肝心のドリンクだ。メニューを見ると、意外と本格的な内容のものとなっている。
1歩、外に出るとマジすごい所なんだよ。くどい様だがいったい誰が来るんだよ。
1,800円なんて目が飛び出るような物もあったが、ここは無難に「エクアドル アンデスマウンテン(600円)」にしておいた。
先のカップルが帰ったので、婉曲的に質問してみた。
「まだ、新しいお店ですよね?」
(まさか5年も6年もやっているというわけではないだろう)
「今年で3年めになります」
(え、じゃぁ3年も潰れずにいるってこと?)
「地元の方が飲みに来たりするんですか?」
「来てもわーわー騒げる店じゃないから来ませんね」
なるほど、それは納得出来る。
「殆どが観光客です」
「観光できるところがあるんですか?」
「えぇ、この店の横を流れている川を見に来るとか」
「はぁ…。川をねぇ」
「その映像で流れているのがそれです」
確かに美しい。が、洗濯機の中をずーっと見ていられるくらい、飽きもせずに川の流れを見ていられる自分みたいな人間ならばいざ知らず、普通は10分もすりゃ飽きるでしょ。
なんにしても気さくな店主で話はそこそこ盛り上がった。
「舟伏山に行ってきたんですよ」
「そうなんですね。ヤマビルはいませんでした?」
「はい、心配していましがた大丈夫でした」
「僕は昨年の10月に登ってからは行ってませんが、下りてきたら足に17~8匹くっついてましたよ」
「10月でもまだいるんですか?!」
背筋がゾゾゾ~~~~。
「また、此方に来たら来ます」
次がいつになるかはわからぬも、約束して店を出る。その後は当初の予定通り温泉へと向かう。
そして、サウナを3セットこなし登山とセットで「ととのったーっ」。
因みに「Phin」はベトナム語でコーヒーフィルターのことらしいです。