三匹の老人
かつては経験上、マイナス16℃までならば耐えられると豪語していた自分だが、26歳を堺に1年に1℃ずつ耐寒性が衰えて、58となった今では摂氏16℃が限界数値だ。ん?計算合ってるか?合ってるよね?まぁいい。大体がそんなところだ。
よって昨日の朝の寒さは幾分、というよりもかなり堪える寒さだった。車に乗っている時はまだいい。初冠雪を記録した伊吹山から吹き下ろす、いわゆる「伊吹おろし」が吹きすさぶ、遮るものが何もない田舎道を長女と2人で通学した時のことだ。風がね、それはもうビュービューと顔面からチラ見せの足首にまでダイレクトに吹き付けるのよ。
というわけで長女も今季初の手袋デビューを飾った。
JKの制服にはポケットが付いてないから不便だよね。その割には男子の制服よりも値段が高いのは引退してからも様々な使いみちがあるからだろうか?
後ろから自転車に乗った3人の老人がやってきた。三匹の浪人ならぬ、三匹の老人だ。3人が3人ともカゴにゲートボールスティックを入れているところを見れば自ずと行き先がわかる。
「あに言っとる。日本でも高いが」
「みんながみんな、石油を使いからかすもんでどんどんと高なるんや」
「ほーやなぁ」
「わしなんか見てみ、移動手段はこれだけや」
「ほんなことゆったらわしだって同じやんか」
「まぁ、これが一番、経済的でいいわな」
といった会話を大声でしながらほぼ自分たちが歩く速度で通過していった。よく倒れないものだ。経済的なのは良いが大通りを渡りたいのであれば信号を使いなさいよ。
3人の行き先は通学の途中にある公園だ。毎朝、ご老人のたまり場となっている。
置きスティック用の倉庫まで完備されているところを見ると、いつの間にやらゲートボール専用の公園になってしまったのか?とにかく大勢が寒風をも気にせずゲートボールに興じている。
「お嬢さんら、飴ちゃんあげるゎ。あんたまだ貰ってないやろ?ほれ」
ひとり飴ちゃんを配るおじいちゃん。
「貰ったらお返しは要らんで勝たせてくれなかんよ、はっはっはっ!」
飴ちゃんを貰ったおばあちゃん連中も
「ひゃ~ひゃっひゃっひゃっ!」
と一定年齢を堺にそうなってしまうのだろう、独特の笑いで返していた。何がそんなに面白いのだろう。
「その飴ちゃん舐めたら俺に惚れてまうでな。でも言っとくけど終わったら直ぐに帰らなかぁちゃんにド叱られるでな、誘ったらあかんぞ、はっはっはっ!」
「ひゃ~ひゃっひゃっひゃっ!」
今のはちょっとおもろかった。という風に如何に寒かろうがご老人は皆さんお元気だ。こんな老人に私もなりたい。嘘、絶対になりたくない。
ということで、帰宅すると速攻で朝風呂に入ったった。
寒さで縮こまったあんなところやこんなところが一瞬にして弛緩するのがわかった。