氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

闇に潜む地名の罠

「どうすればいいの!」

「いや、それは歩いて頂くしかないですね」

喧騒で目が覚めた。バスの中での出来事だ。

 

起床時刻が早いことから、翌日が休みでもない限りあまり夜は出歩かない様にしている。ただどうしても外せない理由がある場合は別だ。いわゆる酒席なのだが、以前は代行運転を頼りにしていたのを最近はバスを使って帰宅する様にしている。代行運転だと帰宅時刻がズルズルと先延ばしにされる可能性があるからだ。要するに自分の意思に関わる問題とも言える。

 

となると通勤に使った車が邪魔になるので、その様な場合は一度帰宅し自動車を置いたその後、再び職場まで走って戻ることにしている。距離にして11kmばかりなのでちょっとしたランニングの練習にもなる。

 

何時のバスに乗ったかは記憶にないが、そのバスの行き先、つまり終点がどこだかは覚えている。以前、眠りこけてついつい乗り過ごし、終点まで運ばれてしまい、その後トボトボと5kmの道のりを歩いて帰ったことがあるからだ。今回はその様なことがけして無いよう、かなり緊張しつつ席についた。が、やはり爆睡してしまった。

 

ここで冒頭のやり取りで起こされる羽目にあう。

 

「どうすればいいの!」

「いや、それは歩いて頂くしかないですね」

「こんなところから歩けって言うの?!」

年配の、痩せた眼鏡をかけた女性だった。大声で運転手に怒鳴っている。理由はわからぬがどうやら乗り過ごしてしまったらしい。

 

「いや、ですから、戻るわけにはいかないので、歩いてご帰宅いただくか、折返しのバスをお待ち頂くしかないですね」

「そんなの待っとったら帰るの何時になるかわからへんやん!」

「では、歩いていただくしかありません」

 

往生際悪くねばったとしても、時間を元に戻すわけにもいかず、結局あきらめ恐らく料金を余分に払い降りて行った。その間、バスは足止めをくらわされていたので、やれやれやっと出発か、と、ふと窓外に目をやると、見慣れた漢字二文字が飛び込んできた。停留所の看板だ。自分が降りるはずの地名がそこにある。

 

やべっ!!

 

「すみません!ごめんなさい!降ります!」

思わず大声が出てしまったが、なんとか間に合い降ろしてもらうことが出来た。それもこれも、ある意味あの女性のおかげと感謝したのも束の間、

「あれ?」

いつもと違う景色がそこにある。

 

あぁ~っ!やっちまったぁ~!

地元民の思惑か、はたまたバス会社の意地悪か、住まい界隈に来ると地名を冠したバス停が5つも連続するのだ。自分はそのうち4番目で降りなければいけない筈なのに、あろうことか「どしょっぱつ」(※標準語でいうところの1番最初)で降りてしまった。

 

一瞬、愕然とはしたものの、「まぁ、乗り過ごすよりはマシか」と、残り3kmの道のりを走って帰ることにした。酒の力を借りてほどよくHighになっていたのかも知れない。

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