「そこに山があるとはいっても無謀に登るな」の巻
「なぜ、山にのぼるのか。そこに、山があるからだ」
はイギリスの有名な登山家ジョージ・マロリーが語ったとされる言葉だが、その意味を紐解き、人生を山に例え「一心不乱に頂上を目指せば充実した人生が送れる」といった哲学的なものと解説される向きがある。
ところがそんなものは全くのデタラメで事実誤認。
そもそも、山などという抽象的な言葉は使われず、きちんと「エベレスト」という言葉が使われている。すなわち「なぜ、エベレストにのぼるのか」と訊かれ「そこに、エベレストがあるからだ」と答えたのが事実とされる。言葉を弄してペテンにかけるイカサマ師や政治家などは世の中にごまんといる。肝心なのは人に教えを乞うことよりも、先ず自らの意思をより強固とすることだろう。
などと、偉そうなことが言いたかったわけでもなんでもない。
話を戻す。
「なぜ、山にのぼるのか。そこに、山があるからだ」
岐阜県で一番高い山とされ、その名を聞きつけ日本全国から猛者が集まると伝え聞く難攻不落の剣ヶ峰。この物語は、その山を登頂すべく、命知らずにも果敢に挑んだ一人の愛と勇気のバカ野郎の話である。
岐阜県は山県市という辺鄙な場所に、「みのや食堂」という名の古い食堂がある。
簡単に言ってしまうと「大盛り」を宣伝文句にうたう店だ。たまたま、そこのスタッフが書いたのであろうブログが目に付き、そこに掲載された写真のものを食べてみたいと思ったのが山に登るきっかけになった。お断りしておくが、けして大盛りを目当てにして行ったわけでなく、味覚的要素に惹かれただけの話だ。
「ボルガライス」という名は聞いたことがあるだろうか?福井県は越前市で販売されている、いわゆるご当地グルメなのだが、オムライスの上にトンカツが乗せられ上からソースが掛かっているのが特徴だ。提供する店によりソースやオムライスにその店独自の施しがされており、それを観光目的にはしごする客もいたりするとか。
たまたま見かけた写真がその「ボルガライス」候だったからだ。
開店時刻の午前11時に店に到着すると、既に3名ほどの待ち客が出来ていた。お昼どきは混雑すると聞いていたので、それを避けてのことだろう。
果さて、どの様に注文すればいいのか?メニューにはそれらしき名前が載っていない。
ええい、ままよ。
「すみません。オムライスにカツが乗ったやつを写真でみたのですが」
「はい、オムライスのカツ乗せね。
味噌とケチャップのソースがありますが」
「じゃ、味噌で」
メニュー名もクソも見た目まんまやんけ。
ほどなくして目の前の置かれた山は、圧巻の「エベレスト」だった。
右手に箸、左手にスプーンをハーケンとハンマーになぞらえて先ずはカツを攻める!
「う、うまい…」
ただ大盛りだけの店と多少の侮りは気持ち的に否めなかったが、なんのなんの、オムライスにしてもカツにしても及第点どころか、味だけで十分勝負出来る実にマトモな食堂だった。
然しながら山は見た通り絶大だ。三合目に差し掛かった辺りで危うく遭難しそうになった。
お茶を口に含むとひとまず箸を置き一服。いや、休んでいてはダメだ。大食いと早食いは表裏一体と聞いたことがある。速さを制するものは大盛りを制すという諺もあるではないか、そうなのか?もはや思考回路もショート仕掛けて来たそろそろ五合目。
「まいりました」
挑戦虚しく、下山することを決意した。
ただ、本当に大切なのは下山する勇気ではなく、下山する計画があったかどうかだ。全ては計画通りに運んだといっても過言はない。静かに箸とスプーンを置くと、店のスタッフを呼び、
「すみません。実力不足でした。
お持ち帰り出来ますか?」
とパックをもらいほぼ満席に近い、周りの人々の痛い視線に耐えながらコソコソとパックに詰めたのでありました。
もう二度と挑戦することはないだろう。
それほどまでに今回の山は危険な山だった。
帰ってから残量を測ったら…
パックの重量を除いたとしても約1㎏。
ご利用は計画的に。無謀な挑戦は差し控えた方が無難です。
因みに料金は1,180円だった。高いとみるか安いとみるかはご本人次第。