氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

書けるけど読めない漢字

「あ、そうや」

 

食卓の上に乗った皿をざっと横に寄せ、空いたスペースにおもむろに紙を広げたかと思うと、鉛筆を取り出し何やら文字をさらさらと書きだした。そして

「これ、なんて読む?」

と自慢げな表情で問題を出してきた。嫁のことである。

 

紙にはこれでもかと大きく

「眩暈」

と書いてある。自ら筆をとり文字にしたことはないものの、字面から「めまい」と想像出来た。が、ひとまず口には出さず黙っていた。

 

娘達には当然のことながら読めない。頼みの綱の坊主…、は綱どころか糸ほどにも頼りなく、現役高校生といえども程度が知れるところだ。それを言うと、

 

「もう直ぐ卒業だし、読めなくても死ぬ漢字じゃない」

とのたまった。

 

事実その通り。自分にしても今まで生きてきた中でただの一度も必要としたことがなかったからだ。

 

「お父さんは?」

いよいよ、出番が回ってきた。ただ「めまい」と読むことも、先に述べたが想像しただけで確信がない。

 

「めまい…じゃね?」

恐る恐る声に出すと、

 

「あ、そうか。めまいか。

いや、あのさ、ライブの販促グッズがあって書いてあるのを見たんやけど、

『なんじゃ、これ?』ってなって皆に訊いても知らん、わからんっていうもんで」

 

「ということは、自分も知らないってことか?」

「うん」

 

「それこそ『なんじゃ、それ』だ」

自慢げな表情は一体なんだったのだろう。読めないけれど書けることに優越感でもあったのだろうか。

 

翌朝、わざわざLINEで画像を送ってきた。

 

「眩暈SIREN

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見たことも聞いたこともない。そもそも興味がない。まだ納得が出来ないから答えを出せということか?自分でやれよ。とは思いつつも「めまい」で検索すると一発でヒットした。「めまいさいれん」と読ませるらしい。

 

youtubeで動画も上がっている。女性ヴォーカルだ。恥ずかしがり屋なのか常に横を向いて、更に長い前髪で完全に顔を隠して歌っている。演奏はまぁ、上手い。

 

名を聞いたこともなかったので人気があるのかどうかもわからない。が、一度たりとも目にしたことが袖振り合うも他生の縁とするならば、老婆心ながら静かに動向を見守ってあげようと思う気持ちは1ミリどころが全くない。

 

一瞬「オネマンツアーってなんだろ?」

と思ってしまったことは内緒です。

 

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