『本麒麟がくる』
「おっ、渋いじゃん。なにそれ、スカジャン?」
「渋いじゃん」に「スカジャン」を掛けてみた高度なギャグに世の中は抱腹絶倒の坩堝と化している頃だろうか?いい加減、正気を保ちなさい。
キリンビールの担当者が暇つぶしに営業にやってきた。何の営業だったかは忘れてしまったが、二人とも派手なジャンパーを羽織っていた。因みにひとりはうら若き女性である。
と彼女の方が自慢げに語っていた。
歩くくらいならば誰でも出来る。這って来たなら全力で、それもムツゴロウ先生が犬をあやす時みたいに大袈裟に撫でながら褒めてやったのに。因みに岐阜支店所属の彼らだが、岐阜支店なのに所在は名古屋にある。名古屋から岐阜までならJRで最短27分もあれば到着してしまうのでその方が利便性として良いのだろう。
「それ余分にない?」
半ば、冗談のつもりだった。あればあったで職場の飾りにでもしておけるし、無かったら無かったで困ることは何もない。
「あ、いいですよ。これで良ければ」
と男性担当者が気前よくその場で脱ぎだした。が、差し出すのに躊躇している。
「因みに今日はもう走ってらっしゃったんですか?」
自分のアスリートぶりは関係業者にも広く知れわたっている。というか、走る姿がよく目撃されてもいるらしい。
「これ着て走って頂けるのであればさしあげます」
「なに?宣伝しろってか?」
「はい、お願いします」
「すげっ!なんかキリンビールをスポンサーに付けたプロアスリートみたいじゃん」
「そういうことですね(笑)」
「いいよ、走ってやるよ(笑)」
ならば、せっかくということで、「麒麟がくる」で沸く「岐阜城」を落とし、「岐阜公園」を平定し、「大河ドラマ館」を焼き討ちにしてきてやった。
行く先々で
「おっ、本麒麟がきたぞ」
と場がどよめくのが心地よく楽しかったのは、恐らく自分に羞恥心というものが無いからだろうと我がことながら容易く想像が出来る。撮影フリー。至るところでカメラを向けられたのは恐らく「麒麟がくる」の効果だろうかとは思うが、正直、言わせてもらおう。
ただの一般人が自らの恥を忍んでキリンビール、ひいては岐阜市の為にこれだけ尽力しているんだ。ジャンパー1枚で済ませずにレンガのひとつでも持ってきなさい。あ、レンガって言っても本物のレンガじゃないよー。
羞恥心はないけれど恥はあるんだ。