目には目を「k」には「り」を。
実はここだけの話、昨日10月11日は宅の坊主の誕生日だった。当年とって18歳。こんなクソガキに与える選挙権があっていいのか、とその父親が嘆き悲しむほどに無責任極まるやつではあるが、それでも染色体の1本や2本はくれてやっていることに親は責任をとらねばならない。言い換えれば「義務」ともいうが、ちょっと的外れな義務も存在する。いや、「義務」というよりもただ子に甘いだけだろう。
元は進学希望であったが、とある事をきっかけに舵を就職へと一気に切り替えた。
ところが学校には幾多の募集が来ているもののさすがに出遅れ感があり、自らが得意とするジャンルが仕事となる会社は余りにも残り少なく、もしくは身の丈にあわずで難儀を極めた。
ものは試しと先の身の丈に合わぬ会社を選んでみたものの、案の定、見事になる玉砕を喫したことに端を発し、いよいよ真面目に就活とあいなったわけだ。大体が会社訪問もしておらず、その会社の事もろくに知らずにぶっつけ本番で就職試験に臨むなどあまりに世間を舐めすぎていた。ただ、正直落ちて良かったのかも知れない。その会社の就職実績をみると名大に名工大などの一流が軒を連ねていた。もし選ばれたとしても居場所を失うほど肩身が狭い思いをしたことだろう。
で、今回ばかりは二の轍を踏まぬと会社訪問のアポを取りつけて来たらしい。が、ところがだ、それが我が家から通うには実に立地が悪く、車でないと到底通えないと来たもんだ。さも当たり前の様に、
「送り迎えよろしく」
と言ってきた。オレは無職か?
無職疑惑を払拭することも出来ぬまま、いわれるがままに送り迎えしてしまった自分はこの先、会社に於いての立場は大丈夫だろうか?などと多少は気に病むも、一体全体どういった会社なのかをこの目で直に見たかったというのが本音だ。
会社の所在地は複合ビルの一角にあり、建物が置かれた場所は自然に恵まれた丘陵地にある。地形をうまく利用した建物は表玄関の入口が1階にあり、裏玄関の入口は5階にと、丘に沿ったその形はまるでナメクジを連想させる。中には図書館やオシャレなカフェなどもあり、建物内の利便性は比較的良さそうだ。
「いいか、部屋に入るときはちゃんとノックをするんだぞ」
教えというよりも生まれて初めて見る坊主のノックを見届けようとつかず離れずの距離で見ていたら、片手で「シッシッ」と追い払われた。一人前に照れやがって。
見学は午前中で終了。職場に戻ったもののほぼとんぼ返りで再び訪問先まで迎えに行かされることになる。行きは5階から入り迎えは1階へ。愛も変わらずシンプルなLINEのやり取りだが要件が伝わればまぁ、それでも良いだろう。
「どうだった?」
「あ”?あぁ、まぁいい会社じゃないかな」
「気に入ったのか?」
「うん、まぁ」
「でもお前がいくら気に入っても選ぶのは向こうだからな」
「わかっとる」
なんでも社長の住まいが聞いて驚くことに我が家のご近所だとか。面接で『もしオレを落としたらご近所に会社の悪口をいいまくるぞ』って脅したったらどうだ?等、必要のないアドバイスばかりが頭を過るもそれを教えるのはまだ先の最終兵器として温存させておくことにする。