手袋にまつわる遺伝子情報
その週に祝祭日が無ければ、たいてい水曜日は市場休場日となる。いつもならば午前3時前には自宅を出るのだが、水曜日だけはなるべく子ども達に合わせる様にしている。
ただ起床時刻は大抵いつもと一緒。身に付いてしまった癖というか習慣にはもはや抗えない身体となってしまった。年寄りが朝が早いってのとはわけがちゃうぞ、この野郎。はい、つっ込まれる前にバリア張っときました。
自分に似て時間に几帳面な次女は誰よりも早く家を出る。集団登校だが、集合場所に一番に居ないと気が収まらないらしい。小五の時には既に班長を経験している彼女は小六になりお役御免。残りの小六2名が班長と副班長を務めているのだが、その二人がいつも時間ギリギリにしか来ないことに度々文句を言っている。自分に厳しく人にも厳しいところも自分に似た。
一方、高校三年の坊主は彼に同じくB型の母親に似て時間にルーズ。よくいえばマイペースだ。ついでに風呂も長けりゃトイレも長い。終始のんびりとしている様に見える。がしかし、目下皆勤中だそうな。彼の母親を見ていれば彼女の息子だけに俄かに信じがたいが、考えてみたら自分の息子でもあった。うっかりと忘れるところだった。危ねぇ、危ねぇ。因みに自分も高校は皆勤賞。ただ血液型はO型だ。
さて、中学では特別支援級に通う長女あん子だが、片道約1.1kmの道のりを歩いて通っている。知的障がいがある彼女にとっての通学は、親として懸念していたことだったが、さすがに二年間も通えば当たり前になってしまった。ただ、市場が休みの水曜日だけは通勤ついでに車で送ってあげている。
「オレの時はなにがあっても歩いて行け、って言ったくせにあん子には甘すぎだろ」
と坊主がやっかむも、
「うん、だって甘党だし」
と返す事にしている。そもそもそれが高じて娘の名前になったわけだし。それに男親が娘に甘いのは普通だろうが。
車に乗ると助手席で、手が冷たいのかしきりに両の手をさすさすとこすり合わせている。父親に似て彼女も末端冷え性だ。巷では『氷の手を持つ男』と自分だけがそう呼んでいる。シャリが手にくっつかないから寿司職人に向いているかも知れない。だからそんなことはどーでもいいんです。
仕事帰りに百均に寄り毛糸の手袋を物色した。彼女の手の大きさはまだキッズサイズなので、見た目に子どもが喜びそうな柄が沢山あったが、さすがにキャラクター物は中学生にふさわしくないだろうと比較的おとなしめの柄を購入。その後、放課後にお世話になっている自立支援施設に迎えに行く。
車中で袋ごと「はい」と渡すと「なにこれ」といいながら袋の中を確認し、それが手袋だとわかると満面の笑みを浮かべた「ありがとう」が返って来た。
喜んで頂け幸いです。帰宅すると次女にしきりと自慢していた。百均の手袋でこれだけ喜んでくれるなら店ごと買ったろかしゃんという気にさせられる。
さて、今回はいつまで持つだろう。というのは、彼女は手袋を失くす常習犯だからだ。それも片方の手袋だけを決まって失くして帰ってくる。
ところで我が家には靴下が片方だけ紛失するというミステリアスな出来事がよく生じる。普通に洗濯機に両方を入れたにも関わらず紛失してしまうという不思議。こと手袋に関しては、きっと彼女の母親に似たに相違ない、というかそうとしか思えない。