氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

歯痛から歯医者で思う男女平等参画

前日の晩から少し痛むな、と思っていたんだ。噛めば噛むほど味が出る、ではなく、噛めば噛むほど痛みが走る。忘れたふりして一晩明かせば名実ともに忘れてしまうことを期待した。

 

期待はずれだった。

 

鏡を見ると左の頬の一部分がポッコリと腫れている。そして痛みの程度は昨日のことが可愛いと思えるほどに過激さを増していた。

 

歯医者に行ったところで解決するとは限らずも、こうなると行かずにはいられない。先ず痛みの原因がなんなのか、何故急に痛み出したのかを追求する必要がある。我が体のことながら人に判断を委ねなければならないのは歯が痛いのに歯痒いことだ。

 

かかりつけ医は職場の近くにある。午前9時からの診療時刻を待たず、また予約の電話も入れずに直接、歯科医院を訪ねた。

 

「お待ちいただくことになります」

それは覚悟の上だ。突然、診察をお願いしたのだからそこは致し方ない。が、9時になると直ぐに名を呼ばれた。どうやら9時に予約をされた患者がまだ来ていない様だった。この上なく幸運。そそくさと診療室の椅子に腰をかけ現状を報告した。

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「もう、上の歯と下の歯が当たるだけで激痛が走るんです。当然、物はかめないので食事も取れませんし話もまともに出来ません」

と口を開けたまま説明したので上手く伝わったかどうかはわからない。

 

「レントゲンを撮りましょうね」

先生は虫さえも殺せないほどに物腰穏やかで優しい方だ。なによりも口調の柔らかさが人柄を表している。素直にレントゲンを撮り再び椅子に腰掛け現像を待つ。

「お待たせしました。これ奥歯なんですが、根本の方でポッキリと折れてますね。そこが膿んでいる可能性があります」

自覚症状はないが、どうやら親知らずがあり、その親知らずが奥歯に向かい横に生えていると言う。その親知らずが奥歯を横から圧迫し根元が折れたのではないかということだ。

 

「抜きましょう」

「えっ⁉︎」

「抜いちゃいましょう」

「って、いきなりですか?」

「大丈夫です。ちゃんとご飯は食べられます」

前言撤回。何が虫も殺せぬだ。ワクワクしている様にさえ見える。歯を一本失うなんてことをものの15分で決めろという。

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ただ腹を括った。ことはあっさりと行われ、今は奥歯があった位置にポッカリと穴が空いている。これで少なくとも穴の数で引けを取ることはなくなり男女平等に一歩近づいたと言えよう。

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