買い物偽装
「買い物へ行くからお前達も付き合え」
と娘たちを引きずり出す。
3月いっぱいは部活動に駆り出されていた次女だが、4月に入った途端、いつまでもパジャマ姿でダラダラとしている。知ってる?4月から受験生なんだぞ。早いもので順調にいけば来年度からJKだ。
「えー、めんどくさい」
と言いながらも着替えていた。早くも心と体が別仕立てなのだろう。
SNSで満開に咲く桜の画像がこれでもかという程にアップされ、さすがに2Dは見飽きたと、実際に自分の目で3Dを楽しみたいと思ったのが出かける理由だ。正直、買い物などどうでもいい。先日、足を運んだ三重県いなべ市の梅林公園に咲く梅の花も良かったが、やはり春生まれの自分にとり桜の花は特別に感じられる。そこで自宅から歩いて600m、這っても600m先にある板屋川まで車で向かった。
この板屋川はホタルが飛び交う川としても有名だが、ここ最近は桜の名所としても知名度を上げてきている。
地元民のたゆまぬ努力が実を結びつつあるということか。この地に引っ越して来た35年前にはまだそこに桜の木はなかった。桜の苗木が植えられたのがそれから2年後くらいだったろうか?それが今では完全な成木となり地元民のみならず遠方から来た花見客の目を楽しませている。案の定、川沿いの道路は路駐車でいっぱいとなっていた。
「買い物行くんじゃないの?」
「いや、ここには毎年お前らと桜を見に来たかったんだよ。毎年来てるだろ?」
「そうだけど、もう寒いから私ら先に車にもどるわ」
せっかくたった600m先に車で来たんだぞ。食えとは言わん。少しは愛でたらどうなんだ。仕方がないので自分もすごすごと後ろについていく。
一応、買い物と言った以上、何かを買って帰らねばならない。最寄りのスーパーに行くとたまご売り場へと直行したまでは良かったのだが、なんだこのおびただしい数のたまごのパッケージは?!
なんでこれほど沢山の種類を置く必要があるんだよ。何を購入すればよいのか徹底的に悩んだあげくに選んだのは、三重県伊勢市諏訪産の「森のちから」だった。なんのこともない。東海林さだおが推していたからだ。
「フォアグラもキャビアも生卵のおいしさにはかなわないのだ。『鶏はどうやって自分でこういう味付けをしたのか?』と不思議でならないほどおいしい」との事だ。卵料理ではなく「生卵」に限定して普通ここまで言えるか?
「他になに買うの?」
「いや?たまごだけ」
「それ買うためだけに私等を連れ出したのかよ」
「うん、そう」
「じゃ、男梅も買ってよ」
「買わない」
「ふざけんじゃねぇぞ!」
今年も3人でお花見が出来て良かった良かった。