酒と泪とクズリとカピバラ
帰宅して時計の針を見たら午前2時を過ぎていた。今の今迄オレはどこで何をしていたんだろう?仕事だよ、仕事!飲食、特にアルコールを扱う業界もそろそろと忘年会シーズンに突入し、曜日の末日にこだわらず平日であっても宴会需要が増してきた。よってここのところ毎日を忙しく過ごしている。
山にも行けないし走りにも行けねぇ。もう、ストレスたまりまくりだわ。その所為かどうかは知らんけど、背中の至るところに発疹が「こんにちは」したり「おはようございます」して、もう痒いのなんの。夜は仕事に集中しているからか「こんばんは」は先ずない。
業界が多忙を極めだすとそれに付随し業界団体も動き出す。その最たるもの、酒屋と酒蔵の各々の社長がご機嫌伺いと称した挨拶に来た。ただ、本来の目的は少々違っていた様だ。
「どうも本当にご迷惑をおかけし申し訳ございません」
と酒蔵が謝罪をする。
「こいつがどうしても1人で行けないから付き合ってくれてって言われまして」
と酒屋。酒屋は酒蔵にとってお客でもあるので上下関係はこれで正しいのだが、この2人は大学時代の先輩後輩にもあたるので普通に「こいつ」呼ばわりが適用される。
話は随分と前のことになる。友人の代わりにと酒蔵が予約を入れてくれのだが、それが直前になりドタキャンとなった。自分は全く気にしてもいなかったのだが、例え友人のこととはいえ予約を入れたのは自分だという無駄な責任感と罪悪感にいつまでもグジグジしていたという。
「今日は何軒目だ?」
「2軒めです」
「普通、そういう時は1軒目に来ねぇか?」
「いや、ちょっと引っ掛けてからじゃないと来る勇気がわかなくて…」
ったく。言うことがいちいち嘘臭ぇんだよ、ドラえもんのくせに。
ま、それはいいけど、こうやって無事に何事もなく飲みに来られ普通に注文があり酒を配達出来る喜びを噛みしめる2人だった。
「もう、ほんと仕事もなくて加えて健康診断で再検査なんて出ちゃって、胃カメラや大腸内視鏡なんかもしなくちゃいけなくなっちゃって、まだ子どもも小さいのにオレどうなっちゃうんだろう?なんて考えたら…」
と掛けていたメガネを外す。確かに8月から10月までの約2ヶ月にも渡る緊急事態宣言は酒屋にとり氷河期ともいえる暗黒の日々だったことだろう。わかる、わかるよ、辛かったことはわかる。
でもね、
「うぇ~ん、うぇ~ん」
ってまだ他にも沢山、お客がいるのに号泣しやがって。まぁ、面白かったから良かったんだけど。人が泣く姿を見てこれほど笑えたことはなかった。それだけ世の中平和で平穏な時を取り戻しつつあるっちゅーこっちゃね。
なんか、オミクロンも気合で跳ね返すことが出来る気がする。