万能『たこ焼き』
早朝の仕入れから一旦、帰宅する。嫁の車は既に見当たらない。きっと仕事に出かけたのだろう。それだけで何となく気が落ち着く。
「ただいま」
大きく帰宅を告げると、次女の声が
「おかえり」
と気持ちよく返ってくる。挨拶のキャッチボールが出来るのは夏休み中の特典だ。これでこそ挨拶のしがいがあるというものだね。多くは語らぬが家庭の事情を察して欲しい。
「この『たこ焼き』みたいなものはなんだ?」
食卓に得体の知れないものが仰々しく更に並べられ、箸がきちんと揃え添えられている。
「みたいなものじゃなくて『たこ焼き』。私の昼ごはん。『たこ焼き』食べたいって言ったら昨日、お母さんが買いに連れて行ってくれたの。あん子、20個も食べたよ」
長女は炭水化物が大の好物だ。
「昨日も食べて今日の昼も『たこ焼き』か?」
「うん、美味しいからいいの」
先日もテレビで紹介されていたが、最近の冷食は『たこ焼き』であろうが随分と進化しているらしい。出演者が美味しいを連発していた。
「今朝さ、お兄ちゃんがいつも出かける7時25分になっても全然、起きてこんくて、お母さんに『お兄ちゃん、起きてこんけどいいの?』って訊いたら『今日から夏休み』って言っとったんやて」
「え?もう、夏休み?いいなぁ」
「ところがさ、7時35分に起きてきて『寝坊した』って」
「ほう」
「そしたらお母さんが『なんでっ?!あんた、6日から休みって言っとったやん!』って言ったら『6日を最後に休みって言った』って」
「まぁ、普通は金曜日に仕事へ行って土曜日からだな」
「それでめちゃくちゃ慌てて『弁当、作ったらへんやないの!』って」
「それは慌てるわな」
「それで『今日はこれで勘弁して』って弁当箱に『たこ焼き』入れてソースのペットボトルと一緒に持たせとった(笑)」
「ほう、それはなかなか機転が利くな」
つまり、昨日の次女の昼食である『たこ焼き』にソースがかかってなかったのはその様な理由があったからだ。マヨネーズだけでボソボソと食べていた。