氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

ハッピーバースデー…の筈が「えっ?」

ありがたいことにカップルでのご来店の予約を頂いた。それも誕生日のお祝いをしたいとサプライズにデザートプレートを依頼された。なかなかキザなことを考えるものだ。ただ在り来たりとはいえ当事者にとっては一世一代の大舞台であろう。微力な虚弱体質だが精一杯誠意をもってお手伝いしてさしあげようと思った。

 

せっかくの記念日だ。他のお客からは目の届かない奥の個室をご用意させて頂いた。その場で何が行われようが声は届かない。当局は一切関知しないという姿勢を示したところでファーストオーダー以降は呼ばれた時だけ顔を出すことに終始した。年の頃なら30絡み。そろそろ次のステップへと進展を見せても良さそうな年代だ。

 

然しながら一見、ガテン系の彼氏からはサプライズを企画する様な言っちゃ悪いがインテリジェンスが感じられない。今、自分は凄く失礼なことを言っている様な気がするが恐らく気の所為だろう。外見で人となりが判断出来てしまう人は底が浅い証拠とも言える。なんか更に失礼なことを言ってしまっている様な気がしてならない。

 

宴もたけなわ。しばらくすると女性の方が顔を出し、

「すみません。そろそろデザートをお願い出来ますか?」

とお願いしてきた。なんだ。依頼者は女性だったのか。自分が受けたわけではない予約だったのですっかり勘違いしてたよ。女性が依頼者ということならば見た目の辻褄が全て合う。ここまで来たらもう歯に衣着せられぬ。

 

さぁ、舞台も山場だ。自らがデザートプレートを持ち二人に花を添えることにした。

 

先ずは物陰に隠れる。手順としてはいきなり二人の前に顔を出し

「お誕生日おめでとうございま~す!」

と祝辞を述べつつ登場する。それが自分の役目だ。よし、準備は完了。

 

「お誕生日おめでとうございま~す!」

ひらりと大げさにアクションを交えてふたりの前に飛び出した!えっ?あれ?あれれ?

 

二人ともいないじゃん!

 

ふと振り返ると怪訝そうな表情で彼氏が立っている。え…。

 

こうなったら仕方がない。自分から

「あ、すみません。お誕生日おめでとうございます」

とお互いに立ったままデザートプレートを直に渡した。

 

「なに?サプライズ?マジで?!めっちゃ嬉しい!」

と喜んでくれたが気持ちは複雑だ。加えて前言撤回。めっちゃいい人、この人。

 

「なにつっ立っとんの?」

そこへやっと彼女が登場。肝心なタイミングでトイレに行っていたらしい。彼氏の手に既にプレートが渡っているのを見て「あっ!」と驚きを隠せない表情をしていた。全て台無しにしてしまった。

 

「あの…、ごめんなさい。ここは全て水に流して最初から仕切りなおしますか!」

「あ、もういいです。そこまで大したことでもないですから」

この言葉が気遣いなのか諦めなのかはわからないが、最後は「ごちそうさまでした」と笑顔で帰って行かれたので恐らく前者だったと信じたい。

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