うちだってお隣ですから
「ねぇねぇ知っとる?」
先ず話しかけられた時点で、それが自分に向けられた言葉なのか、はたまた独り言なのかを判断せねばならない。いつもながら独り言の多い嫁のことだ。迂闊に返事でもしようものならば「はぁ?」なんて顔をさせるからだ。
「なんや、無視か」
やはり自分に向かって言っていたらしい。
「え?いや、知らん」
まず質問の仕方が間違っている(キートン山田)
「ねぇ、昨日凄かったよね?」
人に無視するなと言わんばかり引き寄せたくせに、お次は隣にいる次女に向かって話し始めた。
「あぁ、昨日の?うん、凄かった」
もう、お前ら二人で話しとけ。
「今、横で解体工事やっとるでしょ?」
「あぁ、そこんとこな」
と自分が顎で方角を示す。
我が家の直ぐ隣にはドブ川が流れており、そのドブ川を挟んでほぼ隣の邸宅が解体工事をやっている。
「そこにさ、消防車が5台も来て辺りが騒然としとったんやて」
「救急車じゃなくて消防車が?」
「うん、消防車」
なんだ、解体中に死体でも出て来たのかと多少ワクワクしたのに。
「ガス漏れでも起こしたか?」
「そう、ユンボで穴掘っている時にガス管を引っ掛けたんやって」
「そうか」
解体工事でユンボにまつわる話としてはよくある事なので直ぐにピンと来た。在京時代に工事現場の警備員のアルバイトをした時にも同じことを経験したからだ。他にも後ろの車に気が付かず、バックして車を押しつぶすのを目の当たりにした事があった。
「あのさ、『あぁ、そうか』じゃないでしょ。ドブ川を挟んで確かに向こうの町内の出来事かも知れんけど、間にドブ川あるってだけでうちは直ぐ隣なんやでね。なんかあったら堪らんわ」
「あ、ほんとやな」
そりゃ、確かにその通りだ。ドブ川を挟んでも距離にして3mほどしかない。
「で、見に行ってきたのか?」
「そりゃ、見に行ってきたわ。じゃなきゃ消防車の数までわからんでしょ?」
「わざわざ遠回りして?」
「うん」
我が家からドブ川越しに見える距離にはあったとしても、そこまで行こうと思ったらかなりの遠回りを強いられる。大した野次馬根性だ。
しかしながらここ数日間、朝っぱらずーっと工事の騒音が続いている。早朝の仕入れから帰宅したところでウトウトする時間さえも与えてくれない。一刻も終了することを願う。