「はじめの一歩」は過酷な道だった
「おまえ、GW中どこにも行かんの?」
「あ”?あぁ。友達も誘えんしさ」
「なんで?」
「俺はよくても奴らは会社から止められとる」
「外出をか?」
「うん」
マジか。外にすら出るななんて会社が言うのならば、飲みに行こうと思う奴なんているわけないじゃんね。その点、坊主の会社は規律が緩いらしい。
「で、おまえもずーっと家に閉じこもっているつもりか?」
「あ”?あぁ。予定もないし」
「お前、そのままだとウ〇コになるぞ」
「オレ、もうウ〇コでいいや」
たまたま、とあるパーソナルボクシングジムを営んでいるお方が「フードドライブ岐阜」なるイベントを開催されていた。これは普段、家庭に眠っている缶詰やレトルト食品などを児童養護施設や母子支援施設に贈ろうといった取り組みで、自分もまた取引のある米屋の粋な計らいで頂いた米をそちらに預けに行く必要があった。
「なぁ、そういうわけで、ついでにボクシングを教えてもらおうと思うんだけど、お前も一緒にどうだ?」
「行く!」
即答だった。ほぼ自分に強制されてやらされていた空手にはそこまでの積極性はなかったが、最近になりふつふつと格闘技意欲が高まってきた様だ、と本人の談。
「何時間くらい?」
「1時間くらいじゃないかな」
「たった1時間か」
本来、ボクシングのトレーニングは3分1ラウンドで行われるらしい。ただ3分は予想以上に長い。これは自分も格闘家として試合に出たことがあるから十分、身にしみてわかっている。よって2分、ないしは1分半で様子を見ながらのトレーニングとなった。
内容は縄跳びにミット打ち、実践形式のマススパーリング等々短時間だが、これが見た目や想像よりも相当にキツい。得意の陸上に例えるのならばマラソン競技の様に心拍数を一定数上げて持続させる競技とは全く違い、マラソン競技の最中に100mダッシュを何本もこなすとイメージが近いかと思う。
「おいおい、『たった1時間か』って言ってたのは誰だった?(笑)」
ものの30分で足腰が立たない奴がいた。
「正直、舐めとったやろ?」
「う”~、舐めとったゎ」
そりゃ普段から身体動かしてねぇもん。ついてこられるわけがない。マラソン、トレランと無駄に二酸化炭素を排出するだけと普段から自分のことを小馬鹿にしていたが、少なからずともゼーゼーハーハーの必要性がわかったかと思う。とはいえ自分にしても普段は使わない筋肉を酷使した故に今朝は全身が筋肉痛だ。これがまた心地よい。