氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

トースターが無ければ直火焼きで食べればいいのよ

市場から帰宅したら食卓上に皿が一枚、更にその上に食パンが泰然自若と置いてあった。傍らには「乃が美」と書かれた紙袋が置いてある。

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なるほど、どうやらこの食パンは「乃が美」の物らしい。

 

誰が置いたのかは聞かずともわかるものの、当の本人は次女を学校まで送っていかねばならぬとバタバタしている。今月末に剣道の大会を控え、土曜日だとて部活動に休みはない。ただ次女はといえばそれを気にもせず落ち着き払い、床に腰を掛けニンテンドースイッチでゲームに興じていた。こと試合においてもこの様に余裕綽々でいられることを願う。

 

「これ食べていいの?」

「うん」

返事が聞こえたのはもはや玄関の戸の外からだった。どうやらこれが本日の朝食らしい。

 

「生食パン」としてあるからには、やはり「生」で食べねばならないのだろうか?そもそも食パンに「生」ってなんやねん?焼いてある時点で既に「生」ちゃうやんけ、と思った人は自分以外にも大勢いるはず。オレは誰の指図も受けないといった反骨精神が鎌首をもたげた。よし、焼いてやろう。

 

ただ我が家にはポップアップトースターはあるがオーブントースターがない。試してみたがパンの厚みがあり過ぎてポップアップトースターにはねじ込む以外、挿入する手立てが見つかりそうになかった。

 

こんな時に「ヒロシ」だったらどうするだろう…。ソロキャン、自炊、焚き火、ん?焚き火?そうか!閃いた!直火焼きだ。

 

てなわけでパンを半分に切り片方は「生」、もう片方は「直火焼き」で賞味してみることにした。

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オール電化では叶えられぬ仮定内ダイナミック料理だ。この直火焼きの良いところは、焼き具合をお好みにコントロール出来るところだ。ただ、見た目と感覚が勝負なので、その判断を誤ると食材のロスにつながるどころか、あわよくば自宅までもをコンガリと焼きかねない。加えてリッチな食卓とは正反対に限りなくビンボ臭いのが特徴だ。

 

よし、上手に焼けたぞ。さて食べ比べてみましょう。

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うん、普通にうめぇ、とキムタク似な自分の口がそう言った。自分の好みを率直に申し上げるると、トーストをした方が幾分、自分好みかと思えた。まぁ、それも賛否両論あると思いますよ。

 

帰宅した嫁が開口一番、

「臭い!臭い、臭い!なんか焼いた?」

と大声で言い、渋い顔をしている。どうやら知らず知らずの間に家中が「直火焼き」の臭いで充満していたらしい。ただ如何に調理法がイレギュラーだったとしても、それほどに臭いとまで言われたら「乃が美」も心境穏やかではいられないと思うのだが、幸いなことに「乃が美」にとりその様なことは知る由もない。

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