氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

『あんまん』にこだわる

 

市場での仕入れを済ませ一旦、帰宅すると、嫁が無言で小袋を渡してきた。

 

「なんや、これ?」

「朝食」

「いや、そうじゃない。中身がなにか?と訊いてる」

「あんまん」

 

あんまん?

 

「なに?オレに朝から『あんまん』を食えっていうのか?」

「嫌ならやめとけば」

「いや、別に嫌じゃないけど」

「じゃ、なに?」

「なんでもない」

 

無類のあんこ好きだからにして、当然『あんまん』も大好物だ。ただ『あんまん』に朝食のイメージはない。

 

「これ冷たいんだけど」

「冷蔵庫に入れてあったから」

「このまま食べるのか?」

「嫌なら温めれば?」

 

未だかつて冷たい『あんまん』というものを食べたことがないので、嫌かどうかは自分でさえもわからない。ひょっとしたらそこにとんでもない発見が潜んでいる可能性も無きにしもあらず。

 

「温めて」

「けっきょく温めるんかい」

 

冒険よりも無難な道を選んだ。改めて温めてもらった『あんまん』にかぶりつく。

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「なんだこれ?こしあんじゃねぇか。『あんまん』にこし餡なんて有り得んだろ」

 

敷紙にもご丁寧に『こしあんまん』と大きく書かれている。

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「製造元はどこだ?なに?井村屋?天下の井村屋が『こしあんまん』だと!」

 

実に由々しき事態だ。無類のあんこ好きとはいえ、オレは頑なな粒あん派なんだ。自分の中でこし餡が許されるのは『赤福餅』だけと決めている。そう、決めているんだ。

 

「こし餡のなにがいかんの?」

 

なんだって?全くどうにかしちまったんじゃねぇのかい、おまえさん。思いもよらぬ問いかけに少々たじろぐ。

 

「おまえな、考えてもみろ。うちのあん子とあづ紀はそのままだから可愛いいんだろ。それを煮て潰して裏ごしまでされるんだぞ。原型がとどまっていないあん子とあづ紀が可愛いといえるか?あ?」

 

「つべこべ言わずに黙って食え」

「はい」

 

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