二度の初体験
「親父、空気圧ってどうやって見るの?」
続けて、
「やってみようと思ったけれど全然わからんかった」
と坊主が相談に来た。
そもそも適正な空気圧もわからないらしい。
「どうやって調べるの?」
「たいていの場合、車のドアの辺りにシールが貼ってあるけどな。でも、お前の車はわからん。もう遅いから明日の朝、教えたるから9時に起きろ」
「あ”ー、わかった」
そして、翌日曜日。10時過ぎにもぞもぞと起きてきた。本当は10時を指定しようかと思っていたが、これを見越して1時間早めに言っておいた。
「おい、行くぞ」
「あ”ー」
二人して坊主の車に乗り込むと、近所のガソリンスタンドへと向かった。セルフだが空気圧だけでも無料で調べることが出来る。
ドアを開けシールを確かめる。少しわかりにくい場所だったが、案の定ドアにシールが貼ってあった。2.6とある。単位は(kgf/cm2)だ。読めねぇよ。ググったら(重量キログラム毎センチ平方メートル)だそうだ。いや、これスラスラと言える人っている?
「このメモリを2.6にセットして、あとはこのノズルをバルブの先端にあててギュッと押すとほら、チンチンと機械がなるだろ?この音がしなくなったらOKだ。あとは自分でやれ」
と丸投げして自分は車で待機した。だって雨降ってたんだもん。
程なく作業が完了。給油も済ませ帰宅の途につく。
「いや、全然走りが違うわ」
と生意気にも走りについて語っていた。
「悪い。ちょっと小学校に寄って」
「あ”?なにしに?」
「選挙。お前もだぞ」
そう、岐阜県知事選挙の投開票日だ。
坊主にとっては選挙権を得て初の選挙となる。
「行った方がいいの?何も持ってきてないけど」
「いいの?と聞かれりゃ、行ったほうがいいに決まってるけど、権利であって義務ではないからな。でも一度は経験しておいた方がいいだろ」
どうせ「行けよ」と口で言うだけではあやつの事だ、けして行かないだろう。だがついでとならばそういうわけにはいかない。ひょっとしたら、と思い入場券と一緒に新品のマスクもあやつの分まで用意しておいた。
単に紙に名前を書いて箱に投ずるだけの粛々とした作業だが、同日にふたつの初体験を経たことになる。
ただ、肝心の初体験はいつになることやら。
※禁止事項と知らずに撮影してしまった投票所の写真ですが、初めての投票ということに加え、即時アップをしないことで了解を得ました。