坂祝町(さかほぎちょう)の灯火@一億の「とんちゃん定食」
三菱のパジェロ王国として名高い町が岐阜県にある。難読町名としても県外にも名高いが、なぜか鉄オタだけはスラスラと読めてしまう「坂祝町」だ。国王はパジェロ2世。パジェロの塔に3つの下僕と共に住んでいる。
ところがその三菱パジェロを製造し、全国に送り届けてきた坂祝町の「パジェロ製造」が2021年に閉鎖することが決定した。仕事も生活もパジェロに依存していた坂祝町だけに、町内には激震が走ったそうだ。かつての名車、パジェロもその名前を消すことになる。
そこを働き場としていた職員にとって死活問題となり得る話だが、工場の恩恵を受けていた近隣の店舗にとっても頭を悩ませる問題になると予想される。
前置きが長くなったが、その坂祝町にまでわざわざ足を運び「とんちゃん」を食らいに行ってきた。題して「君の内蔵をたべたい」坂祝編だ。
店の名は仰々しくも「一億」という。
「兆」を店名に使う店はそこそこありそうだが、「億」を使うところが中々レアっぽくていいじゃないか。この地でかれこれ50年営んでいるそうだ。わざわざここにまで「とんちゃん」を食べに来たのには理由がある。実はこの店の跡取り、いわゆる若旦那が以前の同僚なのだ。店を辞めて2年になるが、今回、初めて訪問することが出来た。
若い頃は岐阜で一流と呼ばれる割烹料理店に身を投じた彼だったが、紆余曲折を経て坂祝町に新風を巻き起こすといったところだろうか?期待するとしよう。
「いらっしゃいませ」
とのっけから登場したのは彼だった。もうちょっと時間を掛けて感動のシーンを演出しようと思っていたのに。ったく…、空気を読めよな。
「遠くからわざわざすみません」
「いや、他に此方に来る用事があったんでな、悪いけどついでなんだよ」
ううん、本当は用事なんて全くなかったの。ただ、ここで恩着せがましく正直に言っちゃったりすると、自身の対外的な品格に影響を及ぼすよね。ただでさえ下品に思われていそうなのでこれ以上、自分で自分を貶めたくないの。
彼が引っ込むや否や、厨房の奥からキレイなお姉さんが登場した。
「ご来店ありがとうございます。息子がお世話になりましてありがとうございます」
えっ?ええっ?
「お母さん?うそっ!若っ!」
挨拶も忘れ思わず口をついて出てしまったが、一気にこの店のコストパフォーマンスがうなぎのぼりになった瞬間だった。
で、相変わらずレビューらしいレビューはないが、さすが物が屠場からの直行便ということで、内蔵の鮮度がまるで違った。別格だ。下処理に関しても、その丁寧さが見た目にわかった。おまけに価格が激安ときている。
で、自分は590円の「とんちゃん定食」
娘たちは370円の「中華そば」
その他にも…
夕刻に彼からLINEが入った。
「今日はありがとうございました。また此方の方に来られる時は食べに来て下さい。遠い中ありがとうございました」
と律儀な内容だ。
うん、そちらに用事がなくたって知ってしまった以上はもちろん行くよ。お母さんに会いに。但し、返事は
「此方こそありがとう。マジで美味かったよ」
と無難に返しておいた。