氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

「しっとりと 五十路女に 阿闍梨餅」

「美味しいお饅頭があるんですがお好きですか?」

五十路絡みの女性が耳元でそう囁いた。昔からの馴染み客でもある。

「お、おまんじゅう?おまんじゅうにも色々あると思うんだけど…」

僕にはそう答えるのが精一杯だった。

 

「いやだ、今スケベなこと考えてたでしょ?」

図星だ。いや、というよりも、日頃から思考能力の99%はそちらに費やされている。

 

「今度、京都に行ったときに買ってきますね」

 

そして約束したわけではないが口述通りに買ってきてくれたのが京都は老舗和菓子店「満月」の『阿闍梨餅』だった。

f:id:Croquis009:20201024130638j:plain

 

現在は馴染みの客でもある彼女だが、20年ほど前にうちでスタッフとして働いていたことがある。面接は自分が担当した。今に変わらず言動に落ち着きは無いが、会話からしばしば飛び出すウィット感が客受けすると感じ、そく採用を決めた。

 

退社後は紆余曲折を経て♫日生のおばちゃん自転車で~笑顔を運ぶふるさとよ~♫でお馴染みの生保レディーにおさまり保険外交員を勤めた。この手の展開でよくある話、「最初の客は以前の職場」を習わし通り実行。そして多くのスタッフを枕営業の餌食にし、保険に無理やり加入させたと人伝に聞いたが、果たして女性スタッフについてはどの様に籠絡したのか未だに謎だ。

 

今は生保レディーも退職し、足繁く京都に通っている。遊びに行っているわけではない。あの元気だった彼女も病という厄介ものには抗えず、欲しくもない腫瘍が身に宿ってしまったとのことだった。そこで意を決して仕事を辞め、京都の病院にまで診察、検査、治療を含め通っているというわけだ。そのついでのお土産というわけである。

 

「ヘルプマークとか持ってんのか?」

電車で通うとなると確実に椅子に腰がかけられるとは限らない。権利は行使すべきと訊ねてみた。

「ありますけどね、電車が混んでたりするとカバンとかに付けてても殆ど見えないんですよね。それよりもお腹をみて『あ、どうぞ』って席を譲られることの方が多いです」

「確かにその腹はどうみても妊婦だな」

「で、そのあとに私の顔を見て『しまった!』って顔をするんですよね」

「ぎゃははははっ!ところでお前、いくつになったんだ?」

「早生まれなので来年50です」

「それで妊婦はないわなぁ」

 

というわけで病の身でありながら性格は相変わらず明るい。ビールを片手におでんをほおばって「ガハハ」と笑っている。当分は大丈夫だろうと確信した。

 

で、生まれて初めて食べた『阿闍梨餅』はガワのもっちり感と中身の粒あんが見事にまいっちんぐマチコ先生した食感と味わいで、まるで大谷翔平の直球が大脳皮質をえぐったかの様な見事な味わいだった。

f:id:Croquis009:20201024130710j:plain

f:id:Croquis009:20201024130728j:plain

f:id:Croquis009:20201024130746j:plain




既にお気づきかとは思うが、冒頭の数行は単なる願望の表れで完全にフィクションです。



 

にほんブログ村 オヤジ日記ブログ いきいきオヤジへ
にほんブログ村