顔も見たくないが行かねばならぬ
付き合いたくないどころか、一度たりとも顔を見たくない。それにも関わらず会わざるを得ない。そんな忌々しい奴が誰にでも一人や二人はいるかと思う。
ただ客商売でお客を待ち受ける立場にあって
「あの野郎、また来やがったぜ。来るんじゃねぇよ」
といったケースは稀というかほぼ無いだろう。そう思える相手ならば
「もう来ないで下さい」
と言ってしまえば済むことだ。いわゆる出入り禁止にすれば良い。
ところがそうもいかない場合が往々にしてあるんだな、これが。例によって例のごとく痛いの。自分にとってここ最近、痛い話といえば「歯」の話に尽きる。左の上の奥歯が噛むたびに激痛が走るので、顔も見たくない、何なら消えてしまって欲しい、いつもの歯科医のところへと渋々行ってきた。
「あぁ、腫れてますね」
指先で歯茎をぷにゅぷにょしながら何だか嬉しそうに話す。その他にも小声で呟くのが聞こえるが、何を呟いているのかは不明瞭だ。
「どうやら膿が溜まってますね。麻酔して切りましょう。膿出しちゃいましょうね〜」
また簡単に言うよ、この人。麻酔を掛けるや膿出しちゃいましょうまではまだ良いとしても、「切りましょう」って耳に入れる必要ある?
「痛かったら言って下さいね」
言葉使いは優しいが、どこか楽しそうにしている様子が垣間見え、けして気の所為ではないと確信出来る。
麻酔のお陰で痛みは感じられなかったが、「ザスッ」「ザスッ」といった感触が何度も何度も繰り返された。
「はい、ではまた1週間後に来てくださいね。今度はまた違う抗生剤を処方しておきます」
またって、前回も違う抗生剤を処方します、と言ってたよね?ふーん、抗生剤って症状によって色々あるんだ、などと感心しつつも嫌々ながらまた来週、会いにいくことになってしまった。もう、ホント嫌。だけど、これまで三度三度飲まなければいけなかった薬が1日に1回飲めば済むってのはホント楽ちんでここだけはイイ。