「あなた、ご自身の年齢を自覚してらっしゃいますか?」
目玉親父は口もないのに何故、話せるのだろうか?
などと考えたのには歴とした理由がある。PCやスマホを見ることによる目の酷使から来たのだろう、右目の眼球が痛みに悲鳴をあげだした。自分の知る限り、悲鳴をあげることが出来る眼球は目玉親父をおいて他にないはずだと思ったからだ。思いもよらぬハイスペックな眼球だったと改めて気づかされた。普通、手足がついている段階で気づくだろう。
ここのところ視力の衰えが著しくみられる様になってきた。見えなくなってきているのにみられる様になってきたとはこれ如何に。この場合、現れだしたといった方が的確だろうか。そこに痛みが伴うとなれば自力でなんとかしようとも、こと目のことに関しては如何にも非力であることを認めざるを得ない。
すなわち、スペシャリストに我が身、いや我が目を委ねるべく職場の近所にある眼科を訪ねることにした。
眼科に限らずオフィス街にある医療関係の施設は診療時刻が変則的だ。この眼科も午前9時に始まり午後1時に一旦閉まる。第2部は午後2時30分から再び始まるので、その時刻を狙って急襲してみたのだが、既に2名の患者がソファに腰を掛けていた。
待ち時間はそれほどでもない。5分も待たぬうちに診察室に呼ばれると、様々な角度から眼球に光を当てられる。
「具体的にどういった症状にお悩みですか?」
「老眼で辛いのは元々あるのですが、最近は遠くを見るにも乱視が入ってきているのかものがダブって見えたりするんです」
「そうですか。ただ特に角膜に傷がついているということも無いんですが…。逆さまつ毛があるから抜いておきますね」
この逆さまつ毛も以前からの悩みなのだ。12倍の拡大鏡をAmazonで仕入れ、自分で鏡を見つめながら毛抜きで抜いてはいるのだが、それには中々のテクニックと勇気が必要となる。結局、そこもプロに委ねた方がよいと右目1本、左目4本の逆さまつ毛を抜いてもらった。
「ちょっと視力検査もしてみましょう」
と別室に通される。一通りの検査が終了すると、再び診療室に呼ばれで院長の前に座らされた。
「白内障ですね」
「えっ?」
我が耳を疑った。目だけではなく、耳までもが反乱を起こしたか?ただ自分が知る限りでは耳が動き回るキャラクターは存在しない。
「白内障?」
「はい、白内障です」
「白内障って年寄りが掛かる病気ですよね?」
「あなた、ご自身の年齢を自覚してらっしゃいますか?」
早ければ40代でも掛かる病と説明された。
「陽の光がやけに眩しかったりしませんか?」
事実、自覚症状がある。夜の自動車運転において相手のヘッドライトで道をロスすることもないかと尋ねられた。
「ものが二重三重に見えたりする症状もこれが原因だと思います。それが為に目が疲れやすく、痛みに発展しているのでしょう。まぁ、手術すれば治る病気ですが、今後の生活の中でいずれご本人が考えればよいと思います」
中々、つれない言い方をされてしまったが、ということはまだそこまで焦って手術をする必要もないということだろう。
取り敢えず少しでも進行を食い止めることが出来ればと、さっそくドラッグストアにてサプリメントを購入してきた。
詮無いことかも知れないが、まだ手術に踏み切る度胸がないから仕方ない。