氷の上のさかな

氷の上にディスプレイされたさかなの様にセカンドライフをキラキラとさせる為に今を頑張ろうといったシュールなお話。

出産当日

長男の出産は夜も更けた頃で、当時は飲食店の店長として従事する手前、店を抜け出すことも出来ず対面を果たしたのは翌日の朝だったが、長女の場合は夕方に差し掛かるもののまだ明るいうちの出来事だったので、幸か不幸かその場に居合わすことが出来た。

 

幸か不幸かと表現したのにはわけがある。生まれてきたばかりのその赤ん坊は、見た目に青くオマケに産声を上げることもなく、医者と助産師がバタバタと慌てているのが雰囲気として感じられたことに恐怖感を覚えたからだ。見ているだけの此方としては何ら手を下すことも出来ずただただ静観するしかない。

 

が、やっと泣き声らしきものが耳に届いた時には安心感からか全身が弛緩したのを今でも覚えている。ただ泣き声は非常に弱くか細く、「泣き声」というよりも、それはまるで猫の「鳴き声」を聞いている様な印象を持った。

 

多少の不安感はあったが、取り敢えず出産が終わったということもあったので病院からそのまま職場に戻り業務に従事した。ただ子どもが生まれたという事実は当然、喜ばしいことなので、カウンター越しに常連客と喜びを分かち合いビールなどもお祝いに頂いた。

 

「店長、お電話です。奥さんからです」

昭和気質なので、というわけでもないが、仕事中は電話をしてくるなと伝えてあった。それにも関わらずこうして掛かってきたということは、火急の出来事が起こったのだろうと自ずと想像出来た。

 

「あのね、なんか赤ちゃんがおかしいって先生が言うの。今もね、ずーっとカプセルの中に入ったままでまだ抱っこも…。明日、お話するからご主人を呼んでって。来られる?」

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